東電元役員「13兆円」賠償判決、実効性はほとんどなし?:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)
福島第一原子力発電所の事故を引き起こした、東京電力の旧経営陣に対する賠償金額は空前絶後の数値となった。なぜ東電の旧経営陣は個人として総額13兆円以上の賠償責任を負うことになったのかを確認していきたい。
株主代表訴訟の賠償は"青天井”
今回、東電の旧経営陣に対して提起された訴訟は「株主代表訴訟」と呼ばれるものだ。これは「会社の所有者である株主」が「役員個人」に対して「会社への損害賠償」を提起する訴訟である。
ちなみに普通の民事訴訟では、請求額に比例して印紙税がかかる方式となっている。仮に通常の民事訴訟で13兆円の賠償請求を行う場合、100億円を超える印紙代が必要となってくるはずで、これは到底用意できる金額ではない。しかし、株主代表訴訟では例外的に、一律1万3000円の印紙代を支払うことで兆単位の賠償でも、要件を満たせば訴訟を提起できるのだ。
なぜこのような設計になっているかというと、株主代表訴訟によって支払いが確定した賠償金は、訴訟の原告である株主ではなく会社に支払われるためだ。経営陣の不適切な業務遂行によって被った会社の損失を、経営陣個人の資産で穴埋めする。これにより企業価値が底上げされ、株主は企業価値の向上、つまり株価の上昇によって間接的に補償されるというフローを踏む。
仮に株主代表訴訟で役員が敗訴すれば、会社の資産ではなく、家や土地といった個人の資産を処分してでも賠償金を支払わなければならない。そして、それでも債務が残る場合は将来の各種債権を差し押えられ、自己破産に追いやられることになるだろう。
しかし賠償額が高額になればなるほど、“虚しさ”も大きくなるものだ。日本一のお金持ちでも3兆円程度しか保有していないのに、企業オーナーでもないサラリーマン経営陣が13兆円も支払えるわけがない。
役員個人が負う賠償責任をカバーするための「会社役員賠償責任保険」(D&O保険)という保険商品はあるが、これは地震や津波のような天災や放射能汚染といった特殊な損害賠償事案については免責される場合もある。そもそも論として、D&O保険の保険金は大手損保会社であるMS&AD等でも10億円程度が上限で、13兆円以上もの保険金が降りることはまずない。
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