ハンドル握る位置、昔10時10分、今9時15分のワケ:高根英幸 「クルマのミライ」(3/4 ページ)
40代以上のドライバーが自動車教習所で教わったハンドルを握る位置は、10時10分だったはずだ。しかし今は9時15分、ハンドルの中心から水平位置にあるスポークとリムの交点に親指を掛けるようにして握るのが主流となっている。これが最も合理的なハンドルの使い方だからだ。
なぜ10時10分と言われたのか?
これには理由がある。昔はパワーステアリングを装備していないクルマも多く、パワーステアリング装着車でも油圧式のパワーステアリングだった。そのように操舵に筋力が必要だった頃のクルマは、ハンドルを引いて回す方法が一般的だった。そのため少し上の10時10分の位置を握り、切る方向によって左右どちらかの手がハンドルを引きながら回し、もう一方の手は軽く添えつつ、さらに大きく切り足す時のために下方へ手を滑らす操作方法を採るのが一般的だったのだ。
しかしEPS(電動パワーステアリング)が主流となった現在、操舵力は軽減されており、操舵角を保持する力も以前よりずっと少なくて済む(EPSの場合、細かな調整が可能なため)ので、引いて操舵するのではなく、押して操舵する方法が主流になったのだ。
ちなみに内掛けハンドル(ハンドルの内側から手をかけ、掌を自分に向けるようにして握って回す方法)は、パワーアシストのないステアリングや、ハンドルが大径なバスや大型トラックで使われるもので、乗用車それもエアバッグが装備されたクルマでは必要がなく、舵角の調整が雑になるだけでなく、危険ですらある(万が一の衝突事故時に腕を折る&顔面強打)ので、絶対に止めてほしい操作だ。
現在も8時20分から10時10分までの範囲を握るようにして、ドライバーの体形によっても調整する、という柔軟な教え方をする教習所もあるようだが、そうした説明では、なぜこの位置で握るのかという理由を曖昧にしてしまう。「9時15分が基本」と確固たる姿勢を示して、それ以外は例外として体形で調整するというように説明した方が、ずっと明解で分かりやすい。
「楽だから」「これが自分には合っている」という自分勝手な考えで判断するあたりに、クルマの運転における責任の重大さを忘れてしまっている。ゴルフでも野球でもスポーツはまずフォームを重視することが、成績に結び付くように、運転もフォームが大事なのである。
自動車メーカーはどんな体格のドライバーでもキチンとしたドライビングポジションで操作できるように、シートやハンドルの調整機構をクルマに与え、シート形状や構造もドライバーをサポートするものとなるように苦心しているのだ。
シートの位置さえも自分の体型から考えてベストな位置が存在するにもかかわらず、無頓着なドライバーは多い。乗り降りしやすいから、前に近いとカッコ悪い……どうでもいい理由で崩れた運転姿勢で運転操作しているのである。その結果、疲労は増し、腰痛を引き起こす(腰痛持ちの人の方がむしろ姿勢が悪いという印象だ)こともある。
筆者が見てきた一般ドライバーの9割は、シートがハンドルから遠すぎる。そのため、急ブレーキを踏もうとしてもしっかりと踏み込めず急転舵による回避行動も取れない。万一目の前に危険が迫っても、避けることは難しくなる。
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