アマゾンの新しい返品方法 お金を返し、商品は回収しない──なぜ?:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(2/3 ページ)
米国は、日本に比べて返品OKの小売店が多い。米アマゾンなどの大手小売りでは、返金するのに商品は回収しない「Keep it」という新しい返品方法が進められている。なぜ、このような手法を取るのか?
ウォルマートでもKeep itを実施しています。マーケットプレースで出品をする売り主に向けて記されたKeep it ポリシーの内容によると、売り主は顧客にキープしてもらいたい商品の上限価格を設定できます。このルールは、Walmart.comの選択されたカテゴリーの全ての商品に対して、指定された価格以下の商品に適用されるとのことです。
誰が、どの商品がKeep itの対象となるかを決めたり、返品目的の購入を防いだりするためには、AIが活用されています。同社は正確なKeep itの基準値を公表していませんが、広報担当者は「keep itは返品に伴うコストや環境負荷を軽減し、顧客満足を確保するためのポリシーなのです」と述べています。
こうしたKeep itポリシーについて、小売専門家やコンサルタントは「戦略的な取り組みだ」と述べています。記事によると、小売業者の純利益は売り上げ1ドルにつき1〜5セントであるのに対し、返品商品の処理コストは1ドルあたり15〜30セントにものぼり、企業の負担となっているといいます。
また、現在の世界的な混乱における港の状況やコンテナの不足を考えると、製品を海外に送るという選択肢は閉ざされているため、国内で処理をするほかなく、そのような理由を加味すると、Keep itポリシーは理にかなっているともいえます。
成長するリクイデーション(買い取り再販)市場
このような状況を受け、米国では今「リクイデーター」が率いるリクイディティー市場が活性化しています。
リクイデーターとは、廃業する企業の余剰在庫や大手企業の返品商品を買い取り、中小企業や再販業者、ディスカウンターに大幅な割り引き価格で卸売りを行う企業のことをいいます。
例えば、テキサス州・ガーランドにある、リクイディティ・サービス社(Liquidity Service)は代表的なリクイデーターです。同社は、13万平方フィート(1万2000平方メートル以上)もの巨大倉庫にアマゾン、ターゲット、ソニー、ホームセンター大手のホームデポ、家具EC大手のウェイフェアなどから出た返品商品や過剰在庫を大量に仕入れて保管しています。
そして、これらの商品をe-BayやPoshmark(ポッシュマーク)などのP2Pの2次流通マーケットプレースや、D2C、もしくはB2Bなどの異なるチャネルで再販することで利益を出すビジネスモデルです。
リクイディティ・サービス社では、クライアントの余剰品を的確に買い取るために、クライアントの倉庫近くに独自の配送センターを設計する大胆な戦略をとっています。
事例の一つでは、カナダに本社を持つ小売大手のために、本社からわずか20マイルのところに新しい配送センターを開設し、効率的かつ継続的にクライアントの余剰品を調整し、適切に仕分けし、処理能力を最適化したと書かれています。
また、同時に現地で張達した余剰品を売る販路を確立。ロットのサイズと構成を常に微調整し、バイヤーへのアピールを最適化することで、回収率と速度を最大化しているということです。
コロラド州立大学のデータによると、こうしたリクイデーション市場は2008年から2倍以上に拡大し、20年には6440億ドルという規模にまで成長しているといいます。
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