アマゾンの新しい返品方法 お金を返し、商品は回収しない──なぜ?:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(3/3 ページ)
米国は、日本に比べて返品OKの小売店が多い。米アマゾンなどの大手小売りでは、返金するのに商品は回収しない「Keep it」という新しい返品方法が進められている。なぜ、このような手法を取るのか?
環境問題が、Keep itやリクイデ―ション市場を後押し
リクイデーション市場がここまで活性化した背景には、昨今のサプライチェーン問題、急激なインフレなどの要因のほか、返品や過剰在庫が環境に及ぼす悪影響に対し、消費者の関心が高まっていることも関係しているといわれています。
実際、サーキュレーションエコノミーに代表される2次流通などを活用したサステナブルなショッピングの選択肢は、若い買い物客の間で優先度が高まっているといいます。
通常、返品されたり過剰在庫となった商品は、最終的に焼却されたり埋め立て地に送られて破棄されてしまいます。
返品ソリューション企業のオプトロが20年に発表したレポートによると、米国では返品商品の配送などによって毎年1600万トンの二酸化炭素が排出されていることに加え、返品された商品自体によって最大で260万トン以上の埋立廃棄物を生み出していると試算されています。
ESGやSDGsの考え方が定着し、環境に配慮した経営が重視される昨今、こうした環境問題への配慮は小売業者にとって必須事項です。そこに大きなビジネスチャンスを見いだし、多くのリクイデーターが新規参入し、市場が拡大しているというわけです。
米国ではそもそも返品が自由にできることで消費を促す傾向がありました。その反面、過剰在庫や返品による廃棄ロスや環境問題、利益率の圧迫など多面的な問題を抱えるようになってきています。価格が安い商品に限り、Keep itを実施することで無駄なコストを回避できます。
今までのような大量生産、大量消費、大量廃棄のままではシステム自体が機能しなくなっている証拠かもしれません。大手小売企業が実施するKeep itポリシーが今後どのように発展するか、注目する価値があるでしょう。
著者プロフィール:石角友愛(いしずみ・ともえ)
パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。また、毎日新聞「石角友愛のシリコンバレー通信」、ITメディア「石角友愛とめぐる、米国リテール最前線」など大手メディアでの寄稿連載を多く持ち、最新のIT業界に関する情報を発信している。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
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