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年収が半減!? “働かない60代社員”を増やす、再雇用制度のひずみ改正高齢法の実情(1/3 ページ)

70歳までの就業機会の確保を努力義務とする改正高齢法への企業の対応を見ると、「60歳定年を維持したい」という企業の本音が透けて見える。そんな対応が生んだ、“働かない60代社員”を増やす、再雇用制度のひずみとは? 人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。

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 70歳までの就業機会の確保を努力義務とする「改正高齢法」が施行されて1年が経過した。しかし、対応は努力義務であることに加えて、現行の65歳までの継続雇用制度(再雇用)に問題を抱えている企業も少なくない。

 こうした背景から、改正高齢法に対応済みの企業は前回の記事で触れたように21.5%(経団連調査)と低い。

60歳定年を維持したい企業

 厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告」(2022年6月24日発表)によると、65歳までの雇用確保措置の内訳は、定年制の廃止が4.0%、定年の引き上げが24.1%、継続雇用制度の導入が71.9%。再雇用制度などの継続雇用制度の導入割合が高い。

 企業規模別では従業員301人以上では継続雇用制度の導入企業が85.0%と、大企業ほど継続雇用制度を導入している企業が多い。


厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告」(2022年6月24日発表)より

 60歳定年でいったん退職した社員を再雇用するメリットは(1)定年延長に比べて給与が減額できる(加えて高年齢雇用継続基本給付金を受給できる)、(2)継続雇用対象者を限定できる経過措置を利用できる、(3)元管理職などポストや役割を変更できる――などがある。つまり企業としては60歳定年を維持し、60歳以降の人件費を極力抑制したいとの思いがある。

2人に1人は「年収が半分以下に」

 実際に60代前半の継続雇用者(フルタイム)の年収の平均は374.7万円。多いのは「300万〜400万円未満」(32.3%)、「400〜500万円未満」(20.4%)だが、次いで「200〜300万円未満」が16.5%も存在する(労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」2020年3月31日発表)。

 しかも、この中には企業年金や公的給付(在職老齢年金、高年齢者雇用継続給付)も含まれており、実質年収はさらに低い。例えば大手通信企業グループには現役時代の半分程度の年収300万円未満の再雇用者も少なくなく、春闘で底上げの要求を掲げているほどである。

 パーソル総合研究所の調査でも定年後再雇用者の約9割が定年前より年収が下がり、全体平均で年収が44.3%も下がっている。さらに50%程度下がった人は22.5%、50%以下に下がった人は27.6%であり、約5割が年収が半分以下になっている。


パーソル総合研究所「シニア人材の就業実態や就業意識に関する調査」(21年5月)

 年収が実質的に定年前の半分程度に一律に下がるうえ、管理職は役職も外れ、仕事の中身も現役社員のじゃまにならない程度の補助作業に従事しているのが一般的だ。その背景にはもともと雇用確保措置が公的年金(報酬比例部分)支給の空白期間を埋めるために制度化された経緯があり、企業は戦力としての活用よりも“福祉的雇用”の意味合いが強かったという事情もある。

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