年収が半減!? “働かない60代社員”を増やす、再雇用制度のひずみ:改正高齢法の実情(3/3 ページ)
70歳までの就業機会の確保を努力義務とする改正高齢法への企業の対応を見ると、「60歳定年を維持したい」という企業の本音が透けて見える。そんな対応が生んだ、“働かない60代社員”を増やす、再雇用制度のひずみとは? 人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。
求められる、シニア社員のやる気を引き出す仕組み
シニア社員の不活性化の原因は給与の低下だけではない。仕事への意欲を引き出すための仕組みなどの工夫が企業に求められるが、そうした施策に乏しいのが現実だ。
例えば人事評価制度は、給与引き上げのインセンティブにつながるだけではなく、上司とのコミュニケーションを通じて働きぶりのチェックや本人の仕事上の悩みを聞き、新たな役割を付与する場にもなる。
ところが前出の労働政策研究・研修機構の調査によると、60歳前半層の評価制度が「導入済み」の企業は29.3%にすぎない。「導入を検討中」の企業が23.9%に対して、「導入する予定はない」と応えた企業が全体の40.2%と最も多かった。
また、ビジネスモデルの変革などによって高齢社員であっても従来の経験・スキルが陳腐化する事態も発生する。新たなスキル修得を促す教育や仕事への意欲を高める研修も不可欠だろう。
しかし、前出のパーソル総合研究所の調査によると、シニア人材向けの教育・研修の実施については「実施されており、充実している」と答えた人は19.5%にすぎない。「実施されているが、充実していない」が29.8%。「実施されていない」と答えた人が50.7%と半数を超えている。
現役世代に実施している人事評価制度や教育・研修を実施していない企業が多いということは再雇用社員が自分たちは“放置されている”と感じても不思議ではない。
もちろんこのままでよいはずはない。次回は企業は今後シニア社員をどうしていこうとしているのか、企業のホンネと取り組みの状況について紹介したい。
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