「逆らえない」「上を神と崇める」……社員が訴える、不正招いた日野の“パワハラ体質”とは:調査報告書を読む(2/2 ページ)
日野自動車の排ガス・燃費データ不正をめぐり、原因解明に当たった特別調査委員会がまとめた報告書。そこには、「パワハラ体質」に委縮し、意欲をなくしていく従業員たちの生々しい声が記されていた。不正に至る原因の一つとして指摘されたパワハラの問題は、どの企業にとっても他人事ではない。日野の事件が教訓となるよう、報告書に記された従業員の声を見ていきたい。
ほかにも、上司に相談しても徒労に終わる現状や、パワハラに対する理解が薄い社の実態を物語る従業員の声が続く。
ほとんどの上司が相談に対して言う最初の一言が「本当か?」。上司に相談に行くのは自身で結構悩んだ後なので、この言葉を聞くたびに相談する意欲を無くす。この精神状態が行くところまで行ってしまうと「上司に黙って進めてしまえ」と考えるのだろうと思う。
(日野として変えるべきことは)パワハラの実績があるものを役職に就かせないこと。役員・上級管理者はパワハラで告発されても特に処分が甘いと見られている。降格もありだと思う。パワハラ気質は一時的な訓戒では改善しない。実例はいままで幾度と見てきたし、実際にされてきた。働くものを委縮させてしまっては、いつまでたっても不正はなくならない。
衆目の中ミスを責め立てる「お立ち台」
こうした日野のパワハラ体質を象徴する文言が、報告書には記載されている。従業員の回答から散見されたという「お立ち台」の文言だ。
日野では、問題を起こした担当者が、他の部署も数多く出席する会議の場で、衆目の中、問題の原因や対応策について説明を求められる状況を指す言葉だという。
我々は『お立ち台』と呼んでいたが、問題が発覚して日程内に間に合わなければ、開発状況を管理する部署の前で状況を説明させられ担当者レベルで責任を取らされることになっていた。
経団連が21年に実施した職場のハラスメントに関するアンケート調査。400社が回答(回答率26.9%)した結果では、5年前と比べ、パワハラに関する相談が「増えた」と答えた企業は44.0%と半数近くに上った。
20年6月に、大企業に対しパワハラ防止措置を義務づける「改正労働施策総合推進法」が施行され、社会の関心の高まりや、各社が相談窓口の周知を強化したことなどが、増加の要因としている。
一方で、ハラスメント防止に向けた課題では、「コミュニケーション不足」(63.8%)、次いで「世代間ギャップ、価値観の違い」(55.8%)、「ハラスメントへの理解不足(管理職)」(45.3%)が上位に挙がった。日野の従業員アンケートとも符合する点がいくつもある。
調査委は報告書の中で、「日野は、パワーハラスメントをめぐる世間の『物差し』の変化を十分に感じ取れず、うまく対処できないまま、時代に取り残されてしまったのではないか」と指摘する。
従業員の証言や調査委の指摘から、自社でも心当たりがあると感じた読者は多いのではないか。日野のケースを他人事とせず、自社を顧みる契機とする必要がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ブランド失墜――セサミの人気キャラ「黒人の少女を拒否」 誤った対応、経営リスク招く恐れも
米国の人気子ども番組「セサミストリート」をテーマにした遊園地で、黒人の女の子2人をキャラクターが拒否して通り過ぎたように見える動画がSNSに投稿され「人種差別ではないか」との批判が集まっている。遊園地側は「誤解を招いた」として謝罪した。
救急隊が売店利用「かつては通報された」 市民に協力求める消防局のSNS発信に反響
救急隊に食事の時間を――。さいたま市消防局が7月26日に発表した呼び掛けが、SNSで反響を呼んでいる。夏場に出動の機会が増え、救急隊が食事を摂る時間が減っているとして、コンビニエンスストアなどでの飲食物の購入に理解を求める内容だ。
悪質クレーマーは「排除の対象」と判断を――乗客怒鳴ったJR駅員の対応、弁護士はどう見る?
JR山手線の渋谷駅で、線路に財布を落とした男性が非常停止ボタンを押し、駅係員が激高する様子を映した動画がSNSで拡散し、波紋を呼んだ。身勝手な行動を取る利用客に対して、企業はどう向き合うべきなのか。
刺身に電気を流して「アニサキス」撲滅 苦節30年、社長の執念が実った開発秘話
魚介類にひそむ寄生虫「アニサキス」による食中毒被害が増えている。この食中毒を防ぐため、創業以来30年以上に渡り、アニサキスと戦い続けてきた水産加工会社がある。昨年6月、切り身に電気を瞬間的に流してアニサキスを殺虫する画期的な装置を開発した。開発秘話を社長に聞いた。
KDDI高橋社長の緊急会見 「賞賛」と「炎上」の分かれ道はどこにあったのか
大規模な通信障害を起こした通信大手のKDDI。総務省に早期の情報公開を促されて記者会見を開くなど、初動の遅れに批判が集まった一方で、会見で見せた高橋誠社長の説明にはネットユーザーを中心に評価の声が上がる。KDDIの緊急会見から、企業が教訓として学べることは何なのか。

