サイバーエージェント「初任給42万円」の衝撃とからくり:”固定残業制”の表裏(2/5 ページ)
サイバーエージェントは7月末、2023年春の新卒入社初任給を42万円に引き上げると発表した。他社と比較し、高い給与水準であるのは間違いないが、同社が採用している固定残業制の「数字の見せ方」には気を付けるべきポイントがある。どういうことかというと……。
ポイントは「数字の見せ方」
そもそも市況として、若手人材の不足感は高まっており、大手上場企業を中心に給与水準を高めて取り込みを急ぐ動きが進んでいる。実際、東証プライム上場企業165社のうち、22年4月入社の新卒初任給を引き上げた企業は4割を超える。これは過去10年間でも最高水準なのだ。
サイバーエージェント社の同業となるインターネット業界やゲーム業界でも、GMOインターネットグループやコーエーテクモホールディングスなどで初任給を引き上げる動きが出ており、企業の競争力を左右する優秀な若手人材は各社とも獲得競争の様相を呈している。同社の思い切った決断はまさにターゲットとなる層をひきつけ、新卒採用マーケットでも優位に立てるものと考えられる。
しかし、同社の募集要項をよく読んでいくと、決して手放しでは喜んでいられない真の姿が見えてくる。ポイントは「数字の見せ方」だ。
例えば、栄養ドリンクに「タウリン1000mg配合!」と表示があればいかにも効きそうな印象があるが、同じ分量でも単位を変えて「タウリン1g配合!」とすると、大したことないように感じられないだろうか。
先般、通信大手のKDDIが丸1日以上にわたって通信障害を起こすトラブルが発生したが、ユーザーへの補償として総額「約73億円」の返金がなされると聞くと手厚い印象を抱く。しかし、対象者1人あたりの金額に直すと「200円」となり、ごくわずかに感じてしまうだろう。
今般のサイバーエージェント社における初任給月額においても、同様の「数字の見せ方マジック」が存在する。確かに初任給額は「42万円」だが、これは多くの人がイメージする「月額基本給(残業代・賞与別)」ではなく、「年俸額504万円を12分割した1カ月分の金額」である。12分割であるから当然ボーナスという概念はない。
新卒初年度の年収で500万円超であれば十分高いと思われるかもしれないが、ここにもう一つのからくりがある。同社はこの年俸額の中に、あらかじめ規定時間ぶんの残業代を含める「固定残業制」をとっている。すなわち、初任給42万円は「残業代・賞与込み」の金額というわけだ。
固定残業制とは、実際の残業時間にかかわらず、あらかじめ一定時間分の時間外労働に対して定額の残業代を支払う制度だ。「◯時間分残業したとみなして支払う残業代」であることから「みなし残業代」とも呼ばれる。
従って、固定残業制のもとでは、規定時間になるまではいくら残業をしても残業代はつかない。そして、同社における規定時間は「固定残業月80時間分、深夜残業月46時間分込み」。この時間設定が物議を醸している。
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