ミートショックが仙台の「牛タン専門店」を直撃 一時は約3倍になった仕入れ値、どう乗り越える?:長浜淳之介のトレンドアンテナ(2/4 ページ)
牛肉の輸入価格が高騰している。仙台の牛タン専門店も、仕入れ値が急上昇しており、値上げなどの対応を迫られている。現場で何が起きているのか?
仕入れ値が3倍になったことも
さて、仙台駅ビル・牛たん通りでも、ひときわ長い行列ができている人気店の1つがたんや善治郎だ。喜助、利久、伊達の牛たん本舗のように東京には進出していなくて、仙台を中心に宮城県のみで13店を展開している。
同店を経営する、チソー食房(仙台市)の小梁川慎也工場長によれば、「牛タンの仕入れ値は昨年からずっと値上がりしていて、3倍近くにまで上がった時期もあった。今は少し落ち着いたが、それでも以前より2倍近くに高騰している。仙台の牛タンはどの店も値上げするか、1枚の量を減らすなどして対応している」と、牛タン専門店が置かれている厳しい状況を説明した。
同社でも、やむを得ず15〜20%の値上げを実施したが、顧客離れにつながらないか、不安があったという。
牛タンはオーストラリアから輸入しているが、産地は干ばつとコロナ禍のために生産調整を余儀なくされていた。需要が回復しても、急に子牛は育たないので、仕入れ値が上がっている。
また、近年は中国に買い負けるケースも増えてきた。日本向けは形をそろえなくてはならないなど要求が細かいが、中国の業者はごっそり買うので売る側にすれば楽だ。そのため、日本向けが品薄になって販売価格に転嫁せざるを得なくなった。コストコのようなディスカウンターも、コンペティターとして立ちはだかったいる。
欧州産を使う店もあるが、高過ぎて同社にとっては現実的でないという。
コロナ禍で時短を余儀なくされた一方で、協力金や通販の強化でしのいできた。通販商品では、「牛たんが入りすぎてる牛たんシチュー」が、レトルトとは思えない本格的な仕上がりと評価されている。日本最大級のお取り寄せ情報サイト「おとりよせネット」による、「みんなで選ぶベストお取り寄せ大賞2022」のおかず・お惣菜部門にエントリーされるなど、新しいヒット商品も生まれている。
それにしても、原材料の価格が2〜3倍になったのでは、まさにミートショック。2割程度の値上げでは吸収できないのではないかと思う。しかし、そこは企業努力なのだという。
「各社とも、カットしていた肉の歩留まり率を高くしている。また、1枚の切身を120グラムから100グラムに減らすといったようにして、対処している」と前出・小野氏。
仙台の牛タンの場合、皮付きで仕入れて使うのは4割ほどで、残りの6割は使われていない。牛タン業者は、余った肉でシチューやカレーのような煮込み料理を開発したり、カットの仕方を工夫して歩留まり率を良くしたり、牛タンのつくねやソーセージとのメニューミックスを試みたり、仙台牛をメニューに組み込んだり、豚肉の生姜焼きなどとのセットにして安価で提供したりといったようにな創意工夫でミートショックを乗り切ろうとしている。
切り落としで少し歯ごたえのある部分のタンを、安価で提供する動きもある。
今年は、「仙台七夕まつり」が3年ぶりに通常の規模で開催された。9月10日、11日には「定禅寺ストリートジャズフェスティバル」も開かれるので、だんだんと日常の風景が戻ってきた。
キロあたりの輸入牛タン仕入れ値は、昨夏に3000円ほどにまで高騰したが、2200円くらいまで落ちてきた。19年の1200〜1500円前後から比べれば、まだまだ高い。しかし、仙台の牛タン業界では値上げと工夫が顧客に受け入れられて、コロナ禍とミートショックを乗り切れる手応えを得ている。
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