企業に上から目線の「カスハラおじさん」が、大量発生しているワケ:スピン経済の歩き方(3/7 ページ)
「お客」という立場を生かして、店のスタッフなどに理不尽な要求をする「カスハラ」が増えているという。さまざまな調査をみると、カスハラの正体は中高年の男性のようで。なぜ、こうした層がむちゃくちゃな要求をするのか。背景に何があるのかというと……。
「おじさん」が追い詰められている
ご存じのように、日本経済は「ひとり負け」だ。先進国の中で唯一、経済成長をしていない。各国が物価上昇に対応して賃上げを進めている中で、「賃上げをしたら倒産が増える」といった珍妙な理由で、政府が賃上げを抑制するという独自路線をとっている。当然、労働者の生活は苦しくなる一方なので、知識と教養と名刺を武器に組織のためにがんばる「おじさんサラリーマン」たちは経済的にかなり追いつめられている。
そうなると当然、メンタルをやられる中高年も急増していく。厚労省のデータで「うつ」などの気分障害の患者数を見ると、11年には36%が40〜50代だったが、20年は43%に増加している。
これまでは若い男性のイメージが強い「ひきこもり」も、中高年が増えている。内閣府の推計では40〜64歳の「ひきこもり」は61万3000人おり、15〜39歳の推計54万1000人を上回っている。退職や人間関係がうまくいかずに自宅に引きこもるのは若者ではなく、今や「おじさん」によく見られる現象なのだ。
また、一時に比べてだいぶ減少してきたが、40〜50代男性は自殺率が高いことで知られている。厚労省と警察庁の「令和3年中における自殺の状況」によれば、男性の自殺者数は女性の約2倍。前年に比べて20代、40代、50代の自殺が増加したというが、中でも「50代が最も大きく増加」したという。
さて、このように経済的にも精神的にも追いつめられている「50代以降のおじさん」がちまたにあふれている社会で、どんなトラブルが多発するのか想像していただきたい。
まず、「パワハラ」が常態化するだろう。
「なんでオレだけこんなに辛い目にあわなくてはいけないのか」という怒りがマグマのように溜まっている「50代以降のおじさん」からすれば、メンタルヘルスを保つためには誰かに八つ当たりをしなくてはやってられない。組織内である程度のポジションにいる男性たちは、部下や下請けなど弱い立場の人々に暴言を吐いたり、ネチネチとイビることでストレスを発散するはずだ。
そして次に考えられるのが、「カスハラ」の急増だ。
パワハラができるような社会的ポジションにいなかったり、組織内で厳しい監視の目にさらされている「50代以降のおじさん」が自分のストレスを発散するため「八つ当たり」をしようと思ったら、おのずとターゲットは「絶対に逆らってこない弱い立場の他人」しかいない。つまり、接客をする店員、飲食店の従業員、タクシーやバスの運転手、交通機関の従業員、そして役所や病院の窓口の人である。
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