さいたま市を“幸福度ランキング”1位に押し上げた、10年来のスマートシティ構想:自治体DX最前線(2/4 ページ)
さいたま市が幸福なまち、住みたいまちとして躍進している。2020年には、全国に20ある政令指定都市の中で「幸福度ランキング」の1位を獲得した(日本総合研究所調べ)。その一因は、さいたま市が推進してきたスマートシティ構想だ。
住みやすさを実現する「美園タウンマネジメント協会」
さいたま市はスマートシティの取り組みを進めるにあたって、自治体や民間企業、地域の方や大学など「公民+学」が連携する体制とハブになる拠点が必要と考えた。
そこで、地域の課題解決に取り組むためのまちづくりの組織として「公民+学」連携で、ソフト分野の取り組みを担う主体である「美園タウンマネジメント協会」を、ハード分野の取り組みを担う「みその都市デザイン協議会」を設立した。拠点施設として「アーバンデザインセンターみその」を、浦和美園駅の駅前に開設した。
「美園タウンマネジメント協会」の事業の一つとして、埼玉県住まいづくり協議会に所属する住宅事業者3社(中央住宅、高砂建設、アキュラホーム)と協定を締結。区画整理地を活用した「スマートホーム・コミュニティ」の普及を推進してきた。
具体的には(1)高気密・高断熱でエネルギー効率の高い住宅を建設する、(2)電線や通信設備を地中に埋め込むことで、景観と防災性を高める、(3)太陽光発電設備等を導入することで、エネルギーの地産地消とセキュリティを高める、(4)コモンスペースを整備することで、地域コミュニティを形成する──といった内容だ。
高気密・高断熱の住宅(スマートホーム)は、さいたま市の気候、気温に合わせて設定したHeat20さいたま市地区基準により建設された。災害時に電気が途絶えてもおおむね室温13度を下回らない性能が特徴だ。平時には高齢者に多いヒートショック事故を防ぐ。居住者からすると健康面だけでなく、光熱費の削減というメリットも得られる。
最新の街区では、各戸で発電した電力(太陽光)を蓄電池とEVを活用、集中管理し、自家消費率向上のために適切に制御、各戸へ供給する──というエネルギーマネジメントを新たに実装した。再生可能エネルギーの割合は60%を超える、エネルギーの地産地消を目指す取り組みだ。
また、2台のEVは、平日にはエネルギーマネジメントに利用、週末はシェアリングカーに利用できる。住民の脱炭素化への意識を醸成するとともに、災害などの非常時には走る蓄電池としても使えるようにしている。このようなエネルギーマネジメントにより、非常時でもレジリエンスを確保しているのだ。
これらに加え、有山氏は「私有地を少しずつ拠出してもらい、コモンスペースを設けた」と説明する。「地域の家の縁側で生まれるようなコミュニティをイメージした」という。
この他、地域密着マルシェ「みそのいち」、地域の人材発掘「水曜日の雑談カイギ」、美園地区の西に広がる見沼たんぼでの農作業体験、子育てシェアアプリの活用(AsMamaが提供)などにより、多世代のコミュニティの形成を促している。
低炭素型パーソナルモビリティの普及については、ENEOSホールディングスとベンチャーのOpenStreetが協力。同社のサービス「HELLO CYCLING」のシェアサイクル、「HELLO MOBILITY」による小型EVとスクーターのシェアリングの実証実験を行っている。
「今日は人数と荷物が多いから小型EV、移動距離が長いときはスクーター、天気がいいからシェアサイクルといったように、天気や状況、行き先などに応じ、最適な交通手段を選べるようにした」と有山氏。また、オンデマンドタクシーの実証実験も行い、公共交通機関だけでは網羅しきれない“市民の足”を整備している。
「引きこもるのは健康に良くない。美園タウンマネジメント協会・みその都市デザイン協議会では、歩きやすいまちづくりを目指しているが、その際、目的地にたどり着けないかもしれないという不安を拭い去りたい。モビリティのシェアリングやオンデマンドタクシーは、高齢者の外出を促すものになる」(有山氏)
このように、さまざまな実証実験を通じて住みやすさを実現していったが、さらに個人データの利活用により、地域が抱える課題の解決を図った。それが「ミソノ・データ・ミライ」プロジェクトだ。どのようなプロジェクトだろうか。
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