16億円もかけたのに、なぜ「国葬」がチープに感じたのか 「低賃金」ならではの理由:スピン経済の歩き方(2/7 ページ)
16億円をかけた「国葬」が、その額のわりに「安っぽい」という指摘が出ている。確かに、パイプ椅子が並んでいたり、祭壇が薄く見えたりしたが、それ以外にも理由があるのではないか。筆者の窪田氏は「安いニッポン」が影響しているのではないかと見ている。どういうことかというと……。
残念な評価に
では、なぜ日本の威信をかけ、16億円を注ぎ込んだ国家セレモニーが、13億円の英国の国葬と比べられてこんな残念な評価になってしまうのか。
「それは緊縮財政を続けているからだ! 安倍さんの功績を踏まえれば100億円をかけてもいいくらいだった」という積極財政派の皆さんもいらっしゃるだろうが、個人的には、莫大な公金を国葬に注ぎ込んでも「安っぽさ」を払拭(ふっしょく)できなかったのではないかと思っている。
今回の国葬がチープに感じてしまう根っこの部分には、「低賃金」という日本の構造的な問題があるからだ。
ご存じのように、日本の賃金は30年間ほとんど上がらずで、平均年収は470万円でG7の中で最下位まで落ちぶれた。年間の平均賃金ではついにお隣、韓国にまで抜かれてしまった。「激安」「コスパ最高」とあらゆるもので安さを追求してきた結果、労働の対価まで激安になってしまったのだ。
この「安いニッポン」を引き起こしている構造的な問題と、「安っぽい国葬」を引き起こした原因は微妙にリンクしている。それを端的に言えば以下のようになる。
「平等」にこだわるあまり、全員が等しく不利益を被る。
なぜ日本の賃金がここまで安いのかというと、「格差」を極端に恐れるあまり、「貧しくなるならみんな平等に貧しくなりましょう」という“1億総玉砕型”ともいうべき賃上げ抑制政策を続けてきたことが大きい。
世界では、賃上げをしていくために中央政府などが最低賃金を段階的に引き上げていくのが常識だ。もちろん、そうなると賃上げの流れについていけない一部の中小企業は、廃業や倒産に追い込まれてしまう。しかし、そこで日本のように「弱者は死ねということか」というヒステリックな批判は出てこない。
世界では「弱者」とは労働者を指すので、労働者が人間らしく生活するための給料を払えない経営者は残念ながら、ビジネスの世界から退場するのは致し方ないという考え方なのだ。もっと言ってしまえば、人件費をなるべく圧縮したい中小零細企業の経営者に「自主的な賃上げ」を期待するのは、頭の中がお花畑すぎると考えられている。つまり、国や自治体がボトムラインを引き上げていくことは当然であり、それが賃上げを後押しして、経済を好循環させていくという考えが一般的なのだ。
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