インフレ手当は一度だけなら、社会保険料がかからない──本当なのか?:社労士・井口克己の労務Q&A(3/3 ページ)
社員の生活支援のためにインフレ手当を支払う準備をしています。準備をする中で、「臨時的かつ一度だけであれば、所得税の対象になるが、社会保険料はかからない」と聞きました。具体的には、どのようにすればよいのでしょうか。
算定基礎に含まれない「臨時的に受けるもの」とは
社会保険料の算定基礎に含まれない「臨時的に受けるもの」とは、昭和23(1948)年7月12日の通達「改正健康保険法の施行に関する件(抄)」の中で次のように説明されています。
「臨時ニ受クルモノ」とは、被保険者が常態として受ける報酬以外のもので極めて狭義に解するものとすること。例えば、従前に賞与として、一年に一回又は二回の支給を受けていた者が給与の慣行として毎月分割支給を受けるもの、飢餓突破資金として、二月又は三月目毎に支給を受けるもの又は遡及して昇給が認められ、その差額として二月又は三月目毎に支給を受けるもの等は、その支給を受ける実態が、被保険者の通常の生計に充てられる性質のものであるから本法に所謂報酬の範囲とすること。
報道によるとインフレ手当を一時金で支給する企業では、原則、一度きりの支給で、継続して支給する予定はなく、金額もこの1年間の物価高騰の影響を参考にしているところが多いようです。そうであるなら労働の対償ではあるが臨時的に受けるものに該当すると考えられます。
しかし、年金事務所にこのような一時金について、社会保険の算定基礎に含めるべきか確認をすると、「物価上昇のため生活費を補填する手当は一時的であっても、従業員が負担すべきものに対する補填となり報酬に含めるように」と回答をうけます。これは1回限りの支払いであっても、「被保険者の通常の生計に充てられる性質のもの」となるものは、「極めて狭義に解するものとすること」に則って、臨時に受けるもので社会保険料の算定基礎から除いてよいものにあてはまらないと判断されたと推察されます。
まとめ
インフレ手当を一時金で支払っても、社会保険料の算定基礎から除外することはできません。また、会社には資格取得奨励金、社長賞報奨金、赴任手当など、一時金で支払うものがあります。これらも支給要件によって社会保険料の算定基礎に含める必要があります。社会保険料の算定基礎に含まなかったことが、年金事務所の立ち入り調査で発覚した場合、過去にさかのぼって保険料を徴収することを求められる事例もあります。
一時金をあらたに創設する場合は、あらかじめ所管の年金事務所に確認をしてから対応方法を決めることをおすすめします。
最後に、インフレ手当のほかの通常一時金で支払われることの多い手当で、社会保険料の算定基礎となるものをまとめましたので参考にしてください。
著者プロフィール
井口克己(いぐちかつみ) 株式会社Works Human Intelligence WHI総研フェロー
神戸大学経営学部卒、(株)朝日新聞社に入社し人事、労務、福利厚生、採用の実務に従事。(株)ワークスアプリケーションズに転職しシステムコンサルタントとして大手企業のHRシステムの構築・運用設計に携わる。給与計算、勤怠管理、人事評価、賞与計算、社会保険、年末調整、福利厚生などの制度間の連携を重視したシステム構築を行う。また、都道府県、市町村の人事給与システムの構築にも従事し、民間企業、公務員双方の人事給与制度に精通している。現在は地方公共団体向けのクラウドサービス(COL)の提案営業、導入支援活動に従事している。その傍ら特定社会保険労務士の資格を生かし法改正の解説や労務相談Q&Aの執筆を行っている。
株式会社Works Human Intelligence
人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメントなど人事にまつわる業務領域をカバーする大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートを行うほか、HR関連サービスを提供している。COMPANYは、約1200法人グループへの導入実績を持つ。
全てのビジネスパーソンが情熱と貢献意欲を持って「はたらく」を楽しむ社会の実現を目指す。
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