“不毛の地”を開拓? イーロン・マスクがTwitter買収で考えていること:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
イーロン・マスク氏のTwitter買収にまつわる言動に再び注目が集まっている。買収は頓挫したかと思われたが、マスク氏の狙いはどこにあるのか。
海外のスーパーアプリ
スーパーアプリは、中国のWeChat以外にもある。東南アジアで約1億8000万人が使う人気のスーパーアプリ「Grab」も、WeChatのように徐々にサービスを広げてきた。エジプトには「MNT-HALAN」、ケニアには「M-Pesa」、ブラジルには「Inter」といったスーパーアプリがある。
ただ面白いことに、米国やカナダ、欧州にはそんなスーパーアプリが存在しない。理由はいろいろと分析されているが、まずIT企業が絶大なパワーを得ることへの不信感がある。また欧米の先進国では人々がパソコンなどからITの世界に入ってきたので、アプリへの信頼を持ちにくいと言われている。
欧米は中国などと異なり、データセキュリティや銀行の規制が厳しい。WeChatのように複数のサービスでデータを縦横無尽に使うアプリが誕生しにくいという指摘もある。また大手IT企業が他社を買収するのにも、独占禁止法などの規制が壁になる可能性がある。
米国では、Twitterはコミュニケーションツールとして使われているので、すぐにユーザーが支払いなどに使うようになるにはハードルが高い。日本なら、LINEがWeChatに近いレベルで日本人の間で普及しているが、米国は事情が違いすぎる。
ただそんな米国でも、スーパーアプリを求める声はあるようで、ある統計では、米消費者の67%がそうしたアプリを求めており、将来的には10兆ドル規模の市場になるとも試算されている。
もちろん、WeChatのように多くの人々が生活で依存するようなプラットフォームとなると、情報やサービスの中央集権ぶりが心配になる向きもあるだろう。中国政府がユーザーのデータ提供を要請すると、企業は断れないので、強権的な国がデータとサービスを支配できるようになるのは怖い。すべてが政府に見られてしまう監視社会になってしまうからだ。
さらに言えば、ブロックチェーンやWeb3(ウェブスリー)といった非中央集権的な概念がもてはやされている今、スーパーアプリを目指すのは、時代に逆行しているような気もする。
もちろん、マスク氏の意向はツイート1つでひっくり返る。予想ができないその動きに、ツイッター社の運命はまだはっきりしないと言っていいだろう。スーパーアプリ“不毛地帯”である米国や欧州で、同氏がTwitter発の新たな風を吹かせることができるのかを注目したい。その成功が莫大なカネを生み出すことは間違いない。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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