月給35万円のはずが、17万円に……!? 繰り返される「求人詐欺」の真相:働き方の「今」を知る(3/6 ページ)
求人票に記された情報と職場実態が大きく異なる、「求人詐欺」が後を絶たない。洋菓子店マダムシンコの運営会社の元従業員は「月給35万円との約束で入社したが、実際は月給17万円だった」として労働審判の申し立てをしている。求職者を守る法律や求人メディアの掲載基準もあるにもかかわらず、なぜ求人詐欺はなくならないのか? ブラック企業アナリストの新田龍氏が実態に迫る。
求職者を守る法整備
では、求人票や求人広告の記載要件には、具体的にどれほどのルールがあるのだろうか。
そもそも求人側は、「求職者に対して労働条件を明示しなければならない」と労働基準法で定められている。
労働基準法第15条1項
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
そして、この条文中にある「厚生労働省令で定める事項」を含め、企業が労働者を募集するうえで最低限明示しなければならない労働条件は次の通りだ。
- 業務内容
- 契約期間
- 試用期間(有無と、ある場合にはその期間の長さ)
- 就業場所
- 就業時間、休憩時間、休日、時間外労働(裁量労働制が適用される場合はその旨を明示)
- 賃金(固定残業制にする場合は、「手当を除いた基本給金額」「固定残業時間とその手当額」「固定残業時間を超える時間外労働分の割増賃金は追加支給する旨」を明示)
- 加入保険
- 募集者の氏名または名称
- 派遣労働者として雇用する場合の雇用形態
また、順守事項として、次のような項目も挙げられている。
- 労働条件に虚偽の情報または誇大した内容を加えないこと
- 有期労働契約が試用期間として用いられる場合には、試用期間中の労働条件を明示すること
- 試用期間と本採用が1つの労働契約であっても、試用期間中と本採用後とで労働条件が異なる場合には、それぞれの労働条件を明示すること
- 労働条件に幅がある場合(例:基本給 25万〜30万円/月)には、範囲を可能な限り限定すること
- 労働条件は職場環境を含め可能な限り具体的に明示すること
- 労働条件の変更は速やかに、分かりやすく伝えること
- 原則として、求職者と最初に接触する時点までに、労働条件の明示を行わなければならないこと
(出典:厚生労働省「労働者を募集する企業の皆様へ」)
求人メディアの記載基準
さらに、求人メディアの運営企業が個別に設定する「求人広告掲載基準」では、より厳しく自主規制しているものも多い。例えば次のような条件が存在する。
- 現状を誤認させる恐れのある過大な修飾は認めない
- 正当な理由がなく応募を拒絶する表現は認めない
- いかなる名目においても出資、財物の提供を要求するものは認めない
- 昇給、賞与などは実績のみの表示とする
- 入社祝金等労働を担保とする金員の支給と思われるものは、明確な仕組みが確定していなければ掲載できない
- その他手当、優遇制度、研修旅行等は実績及び妥当性が認められなければ掲載できない
- 根拠の無い収入例をキャッチフレーズとしては表現できない
- 根拠の乏しい誇大な表現(例:業界一、ナンバーワンなど)の表現はできない
- 社員平均給与に実例のみの表示はできない。固定給の最低額と根拠を付記する
ご覧の通り、求人広告は国と業界をあげてここまで厳しく規制をし、求人詐欺を防ごうとしているのだ。そしてこれらの規制に違反し、虚偽の求人広告を出した企業は法律で罰せられる決まりもある。
職業安定法65条8項
虚偽の広告をなし、または虚偽の条件を提示して、職業紹介、労働者の募集もしくは労働者の供給を行った者またはこれらに従事した者は、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
──しかし残念ながら、実はこの罰則が適用されたケースはあまりなく、実際求人詐欺も減ってはいない。
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