クルマの「燃料」はどうすればいいのか 脱炭素の未来:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)
「脱炭素」が重要であることは言うまでもない。どれかひとつの方法でやることが難しい中で、どの道を選択すればいいのだろうか。日本の未来を考えると……。
燃料電池とe-fuelの課題
ではこのスパンをもう少し長くして、2050年だったらどうだろうか? もちろんそのときオールBEV化が達成できるているのであればそれはそれで良いのだが、どうも難しいように思う。例えば、ものすごく楽観的に見て75%がBEVになったとして、取り残される2500万台はどうしたらいいのか?
一般的な仕組みとして、社会のリソース不足は貧しい国に押しつけられる。押し付けられた国ではクルマ不足で物流が崩壊し、餓死者がでるだろう。そういう話を考えていくとどうしたって、BEVを補完するために、BEV以外のソリューションも必要になってくる。
これはクルマだけのハナシではない。例えば航空機や船舶はどうするかを考えれば、それら全てをモーターだけで動かすのはかなりハードルが高い。
という問題のソリューションはたくさんあるのだが、いま目の前の話として可能性があるのは、燃料電池(FCV)とe-fuel(合成燃料)になってくるだろう。燃料電池は水素を空気中の酸素と化学反応させて電力を取り出す仕組みで、従来の炭素化合物は酸素と反応すればCO2になるが、水素や水素化合物の場合生成されるのはH2Oである。
水素をそのまま使うのがFCV。水素を大気中の二酸化炭素と化合させて合成燃料にしたものが、e-fuelだ。要するに水素をつくり、それをさらにもう一段加工するとe-fuelになる。
さて、では燃料電池とe-fuelの未来はすでにバラ色なのかといえばそうではない。BEVと同じく、現実的な課題を抱えている。一番の問題は、水素の生産である。原材料は水と電気なので、莫大な電力が必要である。とりあえず褐炭(かったん)などの化石燃料から改質する系の話は、煩雑になるので、今回ちょっと措(お)かせていただきたい。いずれそれもちゃんと書く。
で、水素をつくるにも、そこからさらにe-fuelに加工するにも、大量の電力を使うので、だったら電気のまま使ったほうが良いと言うのが、この議論で非常によく見かける意見である。まあ国内で発電する限りにおいては、おおむねそうかもしれない。九州や北海道から東京まで電気が引けるのかという問題はあるにせよだ。
たぶん、世界の何割かをe-fuelで回していく話のためには、もっと大きな仕組みづくりが必要だ。再生可能エネルギーの中でも特に太陽光を前提に話を進めたい。風力だって基本的な考え方は変わらないのだが、この先ででてくる発電適地の条件が変わってくる。
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