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電卓はイノベが生まれにくいのに、なぜ「3°傾けた」モノが登場したのか週末に「へえ」な話(4/4 ページ)

電卓の歴史は古い。1963年に登場して、その後、さまざまな商品が登場している。イノベーションがなかなか生まれにくい環境なのに、カシオ計算機は「3°傾けた」商品を開発した。どのように開発したのか、担当者に聞いたところ……。

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幻の「9°傾けた電卓」

 0°から9°まで試したところ、被験者の打つスピードや打ち間違いに、大きな差はなかった。ということは、3°傾けると、疲れにくいデータが出たのかと思ったら、そうでもないらしい。傾斜を変えても、スピードも同じ、打ち間違いも同じだが、傾ければ傾けるほど使っている筋肉の負荷が少ないことが分かってきたのだ。

 「であれば、9°で決まりでしょ。なぜつくらなかったの?」と感じられたかもしれないが、それはデータ上の話である。9°の電卓を使うことによって「これを使ったら、打ち間違えるかもしれない」――。そんな不安を感じる人が多いことも明らかになったのである。

 データを分析して、そこから見えてくるものがある。しかし、それがすべてではないことも分かってくる。傾ければ傾けるほど「不安が増す」という声が多く、最終的に「3°」に落ち着いたのだ。


底面には波紋状の溝をデザイン

 最後に、木村さんにどうしても聞きたいことがあった。冒頭でも紹介したように、電卓はほぼほぼ完成されている。さまざまな知見が詰め込まれているので「イノベーションが生まれにくい」といったイメージがあるが、木村さんは自ら手をあげて「電卓の事業部」に入門した。

 「よくこのようなことを聞かれるんですよね。『電卓をつくっていておもしろいの?』と。機能はとてもシンプルで、最新の技術を応用してつくっているわけではありません。ただ、シンプルな構造だからこそ、改善できるポイントはまだまだたくさんあると思っているんですよね」(木村さん)

 3°の電卓は完成したばかりにもかかわらず、すでに次のことを考えいるようで。今回は右手用だったので、次は左手用かもしれないし、さらに傾けて10°のモノが登場するかもしれない。となると、再び膨大なデータとにらめっこの日々がやってくるに違いない。

 カタカタカタカタカタ――。データを分析するのに、どのくらいの時間がかかるのか。新しい商品が完成するまで、何日かかるのか。損益分岐点は、どのくらいなのか。傾いた電卓で計算しているのかもしれない。

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