電卓はイノベが生まれにくいのに、なぜ「3°傾けた」モノが登場したのか:週末に「へえ」な話(3/4 ページ)
電卓の歴史は古い。1963年に登場して、その後、さまざまな商品が登場している。イノベーションがなかなか生まれにくい環境なのに、カシオ計算機は「3°傾けた」商品を開発した。どのように開発したのか、担当者に聞いたところ……。
数字を分析する日々に“酔う”
モーションキャプチャーカメラなどを使うことによって、どのようなことが分かるのか。手や指の動き、姿勢、打ち込んでいるスピードなど、膨大なデータが集まる。木村さんの仕事はデータを集めることではなく、そのデータを糸口にこれまでになかった電卓を開発することである。
データをチラッと見せてもらったところ、数字、数字、数字である。たくさんの数字が並んでいるだけで、それが何を意味しているのか、さっぱり分からない。じーっと見ていても、糸口の「い」も見当たらないほどのデータ量である。
同席していた広報のGさんは、ひょっとしたら理解しているのかもしれない。「数字が並んでいるだけにしか見えないのですが、これってどういう意味ですか?」と聞いたところ「ボ、ボクも数字が並んでいるだけにしか見えません(汗)」とのこと。
新商品が完成する前の木村さんは、膨大な数字を目の前にして、どのような生活を送っていたのだろうか。「1日中、数字を見ているだけの日が続きました。『数字の中にヒントが隠されているに違いない』と信じて、さまざまな角度から分析してみました。あれをやって、これをやって、それをやってといった形で、データを加工したものの、何も浮かんでこなくて、ちょっと焦りました」
データとにらめっこする日が続いていたこともあって、木村さんは数字に“酔う”こともあったそうで。それでも分析を続けていると、“ある共通点”が浮かんできたという。電卓は水平なのに、手の姿勢は外側に傾いていることが分かってきたのだ。
「であれば、手に沿って電卓も傾ければ、打ちやすさが向上するのでは?」という仮説を立てた。0°から9°まで、1°ずつ傾きを変えた電卓を使ってもらって、使用状況の変化を検証していった。で、どのような結果が出たのだろうか。
「そりゃあ、3°の電卓でしょ。商品化しているわけだし、愚問だな」と思った人も多いかもしれないが、半分正解といったところである。どういうことか。
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