電卓はイノベが生まれにくいのに、なぜ「3°傾けた」モノが登場したのか:週末に「へえ」な話(2/4 ページ)
電卓の歴史は古い。1963年に登場して、その後、さまざまな商品が登場している。イノベーションがなかなか生まれにくい環境なのに、カシオ計算機は「3°傾けた」商品を開発した。どのように開発したのか、担当者に聞いたところ……。
電卓に何を求めているのか
それにしても、なぜカシオはこのような奇をてらったというか、エッジの効いた電卓をつくろうと思ったのだろうか。先ほど紹介したように電卓の歴史は古く、知見やノウハウが詰まりに詰まっているので、「これまでになかった形の商品をつくるのは難しい」と言われている。しかし、開発メンバーはそんなことを考えていなかったようである。
人間工学電卓の開発に携わった木村加奈子さんに聞いたところ、「『電卓=ローテク』と思われている人が多いかもしれませんが、開発することはまだまだたくさんあるんですよね」という。新商品を開発するにあたあって、電卓のサイズをいくつか用意したり、ボタンの大きさや形を変えたり、ボタンとボタンの間のピッチを代えたり。サンプルをいくつか用意して、その中から最も評価が高いモノを世に出す――。
新商品の開発にあたって、最大公約数的なアプローチで進めるケースは少なくないはず。さまざまなモノを用意して、被験者たちが「使いやすい」と感じているモノを選んでいくやり方である。ただ、新しい電卓を開発するにあたって、このような方法を選択しなかった。なぜか。
「いろいろなタイプの電卓を用意して、たくさんの人に使ってもらう。そうすることで、過去の改善点を見つけ出すことができるかもしれませんが、これまでになかったモノを生み出すことは難しいのではないか。想定以上のモノをつくって、消費者から『スゴい』と感じてもらうには、開発はゼロベースでスタートするほうがいいのではないか。このように感じていたので、これまでとは違った形で、新商品を開発していくことにしました」(木村さん)
ふむふむ。筆者は開発者ではないが、木村さんの言っていることは、なんとなく理解できる。しかし、だ。「ゼロベース」で考えることは、簡単なようで難しい。何から手をつけたのかというと、「調査」である。
ふだん電卓を使っている人に、電卓に何を求めているのかを尋ねたところ、75%の人が「打ちやすさ」を気にしていて、操作する指については「3〜5本」が多いことが明らかに。この結果を受けて、「打ちやすさとは何か」という謎に迫っていく。主観的な考えではなく、客観的なデータによって見つけ出すことはできないか。そのために、人の手や指の動きを細かく分析できる、モーションキャプチャーカメラや3次元力覚センサーなどを使うことにした。
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