異色の新作『水星の魔女』が話題 ガンダムが“冬の時代”を乗り越えて愛され続ける理由:新連載:大澤孝「トイクリエイターの発想法」(4/4 ページ)
ロボットアニメの代名詞ともいえるガンダムシリーズ。10月から放映中の新シリーズ『水星の魔女』が話題だ。かつてロボットアニメといえば隆盛を極めた時代もあったが、なぜガンダムだけがかように生き残り続けられるのか。「ファースト世代」でもあるトイクリエイター・大澤孝氏が解説する。
ガンダムシリーズが生み出す「情緒的価値」を分析
近年はあらゆる文化で多様化・成熟化が進む。商品やサービスの持つ機能や性能による価値=機能的価値は“似たり寄ったり”の状況になっており、差別化することが難しくなっている。その反動として、体験や印象といった人の気持ちを動かす価値=情緒的価値の重要性が高まってきている。
筆者は自著『おもちゃ流企画術』のなかで、情緒的価値を生み出すための公式を「テーマ」×「人」×「ポジティブ感情」で表している。そして、ポジティブな感情を「(1)興奮(ワクワク)」「(2)喜び(フフフ)」「(3)感動(ジーン)」「(4)安らぎ(ホッ)」「(5)好き(ウットリ)」「(6)驚き(ドキドキ)」の6つに分類し、それらの感情をいかに付与するかで情緒的価値が生じると説明している。
この公式をガンダムシリーズに置き換えてみよう。
まず、ガンダムシリーズを「新規ファン」と「古参ファン」に向けた感情を基に分類してみる。すると、次のようになる。
- 新規ファン向け:「驚き(ドキドキ)」「興奮(ワクワク)」
→コンテンツの連続性をあえて無視することで、新規参入者が自分ごととして捉え、ファン化する。
- 既存ファン向け:「安らぎ(ホッ)」「好き(ウットリ)」
→ファンが期待するものを高いクオリティーで届け、常に進化し続けることでさらにコアファン化する
これを筆者作成の「ポジティブ感情マップ」にマッピングすると、次の図のようになる。
新規ファン向けと既存ファン向けで、それぞれポジションが異なっているのが分かるだろう。これら全体をガンダムシリーズというコンテンツの情緒的価値と考えると、かなり広範囲をカバーしており、器の大きさでいえば、なかなか他に類をみないものではないだろうか。
そして、この大きさを生み出したものが、先述した変化を続けるスタンスだ。まとめると、コアなファンの批判を恐れずに変わり続けていく勇気を持つことが、結果としてコンテンツが長く愛されるための生存戦略といえるだろう。このことはアニメコンテンツだけではなく、あらゆるブランドや商品シリーズにも応用できるはずだ。
『水星の魔女』で新たなファン層を開拓したガンダムシリーズだが、今後はどのように姿を変えながら、さらに長寿化していくのか、注目したい。
筆者プロフィール:大澤孝 アイデア総研代表
アイデア発想の専門家。トイクリエイター。大手玩具メーカー勤務時代に「ベイブレード」「夢見工房」「人生銀行」など数々のヒット商品・話題商品の企画開発に携わる。2021年にはクラウドファンディングにて2000万円以上を集めた話題商品「ミャウエバー」を企画開発。大阪府立大学非常勤講師。近著に『おもちゃ流企画術』(実業之日本社)。Twitterはこちら
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