NTT「初任給3万アップ」が、日本の「賃上げ」に繋がらないこれだけの理由:スピン経済の歩き方(6/7 ページ)
NTTが新入社員の初任給をアップする。現在の初任給を見ると、大卒が21万9000円だが、来年4月入社の新入社員は25万円に。3万円もアップするので話題になっているが、このことによって日本企業の賃上げは広がるのだろうか。
「なんとなく」に流されやすい
が、日本の政治はそれがどんなに怪しかろうとも、データに基づかない話だろうとも、「選挙で勝てそうな話」に流れがちだ。岸田文雄首相がアピールする「聞く力」もそっちに流れがちだ。
そんな首相肝煎りの「新しい資本主義実現会議」では、「構造的な賃上げ」を議論しているが、そこではあまり構造的とは言い難い話で盛り上がっている。
『内閣官房の「新しい資本主義実現本部」によると、一般的に企業間の労働移動が円滑な国であるほど労働生産性が高く、生涯における賃金上昇率も高くなることがデータで確認されているという』(ロイター11月10日)
だから、日本の大企業をGAFAのようにクビにしやすいようにせよ、という主張を一部の有識者が唱えているが、これはほとんど効果がない。繰り返しになるが、日本企業の99.7%は中小企業だ。社員数名の中小企業は、終身雇用と労働組合で社員が守られる大企業よりもはるかに労働移動が円滑だ。
ある日、社長から飲みに誘われて、「ウチも物価高騰で厳しいから」と切り出されて、自発的に辞表を出すように促される……いわば“ソフトクビ切り”がずいぶん昔から当たり前のように横行している。しかし、大企業と比べても中小企業の生産性はかなり低い。「一般的」な話は日本の産業構造には当てはまらないのだ。
日本社会は「なんとなく」に流されやすい。みんながマスクを着ければ医療崩壊は起こらない。飲食店が自粛をすればコロナ患者は減っていく。消費税をゼロにすれば景気は回復する。中小企業を手厚く支援すれば、黙っていても賃金は上がっていく。
残念ながら、どれもエビデンスに乏しい願望のような話だが、日本人は「なんとなく」に弱いので、立派な肩書きを持つ人がそういうことを言い出すと、「そうだ、そうだ」と群集心理に流される。
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