NTT「初任給3万アップ」が、日本の「賃上げ」に繋がらないこれだけの理由:スピン経済の歩き方(5/7 ページ)
NTTが新入社員の初任給をアップする。現在の初任給を見ると、大卒が21万9000円だが、来年4月入社の新入社員は25万円に。3万円もアップするので話題になっているが、このことによって日本企業の賃上げは広がるのだろうか。
「構造的な賃上げ」を避けてきた
しかし、これもイメージの一人歩きだ。
『中小企業白書2020年版』の「受託事業者の現状」を見ると、中小企業の中に、下請法に基づく受託取引のある事業者、「下請け企業」を調査したところ、なんと5%程度しかいなかったのだ。
もちろん、これは業種でバラツキがある。「情報通信業」が最も多く36.2%、次いで「製造業」が17.4%、「運輸業、郵便業」が15.2%、「卸売業」(3.1%)や「小売業」(1.0%)と続く。
「下請け」が問題になっているIT業界でも、6割強は下請けではない。製造業にいたっては8割以上が下請けと無縁で、生産性が低いと言われている小売・サービス業などほとんどない。われわれはドラマや小説のイメージから「中小企業=下請け」と勝手に思い込んでいるが、実はそれは「多数派」の話ではないのだ。
つまり、何かしら新しいルールを整備して、大企業が中小企業を搾取させないようにしたところで、95%の中小企業にはほとんど影響がないのだ。
しかし、「最低賃金の引き上げ」はそういう不公平・不平等なことはない。労働者を使うすべての企業が対象なので、100%の中小企業に影響がある。それはつまり、日本の99.7%の企業に影響するということなので、日本全体の賃上げ効果が期待できるのだ。
ただ、残念ながら、世界では主流の経済政策である「最低賃金の引き上げ」は、日本では唱えるだけでキワモノ扱いで、「弱者切り捨ての新自由主義者だ」「左翼だ」とイデオロギーを超越してバッシングされる。
「最低賃金を引き上げたら、日本には倒産と失業者があふれておしまいだ」「中小企業をいじめるのではなく、もうかっている大企業をもっと締め付けるべきだ」というイメージが一人歩きしたような話が圧倒的に多く広まっているからだ。
本来は、政治家がリーダーシップを発揮して、こういう「ふわっ」とした話に流されず、客観的なデータに基づいた経済政策を進めていかなければいけない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「サクマ式ドロップス」製造元が廃業に追い込まれた、これだけの理由
「サクマ式ドロップス」を製造する佐久間製菓が2023年1月に廃業する。廃業の理由として、同社は「コロナ」と「原材料高騰」の2つを挙げているが、本当にそうなのか。筆者は違った見方をしていて……。
「マルチ商法の優等生」アムウェイは、なぜこのタイミングで“お灸”を据えられたのか
日本アムウェイ合同会社に対して、消費者庁が勧誘などの一部業務を6カ月間停止する命令を出した。「昔から同じようなことをやっているのに、なぜ今なの?」と思われたかもしれないが、どういった背景があるのか。さまざまな憶測が飛び交っていて……。
ちょっと前までブームだったのに、なぜ「高級食パン」への風当たりは強いのか
どうやら「高級食パン」のブームが終わるようだ。最近、さまざまなメディアがこのように報じているわけだが、なぜ「高級食パン」への風当たりは強いのか。その背景には、2つの理由があって……。
「田園都市線」は多くの人が嫌っているのに、なぜ“ブランド力”を手にできたのか
「通勤地獄。なぜあんなところに住むのか」――。SNS上で「東急田園都市線」が批判されている。街は整備されていて商業施設もたくさんあるのに、なぜこの沿線をディするのか。その背景に迫ったところ……。
キユーピーの「ゆでたまご」が、なぜ“倍々ゲーム”のように売れているのか
キユーピーが販売している「そのままパクっと食べられる ゆでたまご」が売れている。食べことも、見たことも、聞いたこともない人が多いかもしれないが、データを見る限り、消費者から人気を集めているのだ。なぜ売れているのかというと……。

