「上司よ、もっと叱ってくれないか」 若者は本当にそんなことを考えているのか:スピン経済の歩き方(5/6 ページ)
残業がなかったり、上司から叱られなったりする企業に対して、多くの若者たちが「ぬるい」と不満を感じているという。「ホワイトすぎる企業」に勤めている若者たちは、「社会人として成長できない」と危機感を抱いているらしいが、本当にそうなのか。
会社をすぐに辞めてはいけない
これ以降、日本の教育現場では、若者たちに対して徹底的に「すぐに会社を辞めるのは社会人失格」という教育が施される。自分自身のキャリアアップなんて発想は皆無で、どんなに劣悪な労働環境でも、上司と性格が合わなくても、歯を食いしばって耐えることで一人前の国民として成長できる、という価値観が子どもの時代から叩き込まれていくのだ。
例えば、1936(昭和11)年の神戸市高等小学校編さん『職業読本 男子用』を見れば、いたるところにこれでもかと「転職ヘイト」がある。
「謂はば、其の職業は神様から自分に與(あた)へられた天職である(中略)人の仕事が羨ましくなったり、他の職業の長所ばかり見て之に憧れたりするのは、つまり天職に対する自覚が足らないからである」
「少しばかり嫌気がさしたとか、又は目前の虚栄や利懲に惑わされて、転々として職をかへるやうでは、何年たつても安住の世界は得られない。昔は『石の上にも三年』といふ諺があつたが、世の中が複雑になり、文化の進んだ今日では、三年はおろか十年の辛抱でも尚不足を感ずる程である」
このような全国的な思想教育が、日本社会に「人は最初に勤めた会社に長く働き続けることこそが正しい」という「新しい生活様式」を浸透させて、国家総動員体制によって完全に定着したというわけだ。
こういう歴史に学べば昨今の「若者はホワイトすぎる企業に嫌気が差している」というニュースは、実はかなり気をつけたほうがいい。
日本人はどうしても戦時教育を引きずっているので、一定の人たちが「ブラック労働」に価値を見出してしまう。ワークライフバランスなんてぬるいことを言わず、低賃金でも文句を言わず汗水たらして働けば、いつか努力は報われて日本は繁栄を取り戻す、という「スポ根」的なストーリーが大好きだ。
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