「上司よ、もっと叱ってくれないか」 若者は本当にそんなことを考えているのか:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
残業がなかったり、上司から叱られなったりする企業に対して、多くの若者たちが「ぬるい」と不満を感じているという。「ホワイトすぎる企業」に勤めている若者たちは、「社会人として成長できない」と危機感を抱いているらしいが、本当にそうなのか。
「異常」とも言える思想に
それに対して、日本では若者が会社を辞めることは、あってはならない事態だ。「あれが悪いのでは」「これが気に食わなかったのでは」なんて原因を考察して、どうすれば若者を会社に縛り付けられるかと頭を悩ませている。
では、なぜこういう異常な思想になってしまったのか。
実は日本も明治、大正くらいまでは諸外国と同じような、若者が好き勝手に転職を繰り返す国だった。しかし、富国強兵政策を進める中で、若者はひとつの会社に縛り付けておくほうが技術力や生産性が上がると考えて、国をあげて「転職は悪だ」というキャンペーンをしたことが大きい。
1924(大正13)年、当時の文部省は米国で「転職調査」を実施した。その結果、米国の若者は、賃金や労働条件の向上のために平均2年で3度にわたって職業を変えていて、そのことを技能が身についていないと分析した。そして、米国を反面教師として、日本の若者たちに対して以下のような労働政策をすべきいう結論になった。
「ただ職業が困難だ、或は疲れたとか、面倒だとか、嫌だとか虫が好かないとか、斯う云ふやうな時に察して(中略)色々とそこに慰めてやる、或は又転職の不利なことを説いてやる」(『職業指導』社会教育協会 P.136)
当時はまだ「メイドインジャパン」の評判も悪く、日本は国として技術力向上に努めていた時代である。そんな中で、若者に米国のように簡単に転職されたらたまったものではない。そこで、一つの仕事に縛り付けて企業の技術力を急ピッチに上げるという「国策」が取られたのである。これは当時、「計画経済」を進めて、国民を一つの仕事に従事させていたソ連などもお手本になった。
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