人的資本は、開示がゴールではない 理解すべき4つの視点:23年3月期決算から義務化(2/3 ページ)
人を資源ではなく資本と捉える人的資本経営において、開示は決してゴールではありません。また、大企業や上場企業に限られた話でもありません。未上場企業や中小企業も「当社には関係ない」とは言えないワケや、取り組みのための必要な視点をお伝えします。
人的資本経営に必要な4つの視点と2つのポイント
こうした背景から、現在は多くの企業の担当者が開示の必要性に迫られ、「いったい何を記載すべきなんだ」と悩んでいるようです。
しかし、人的資本経営には大きく4つの視点と、2つの人的資本経営の実行のキーポイントがあると考えます。以下の図は、リクルート「人的資本経営の潮流と論点2022」の5ページの図を参考に、筆者が加筆したものです。
まず、人的資本経営には4つの視点が必要です。そして、それを実行していくには2つのキーポイントがあります。
4つの視点
- (1)社会的役割の視点……社会との関わりがさらに重要視されてきた
- (2)企業価値評価の視点……有形資産から無形資産の価値評価が重要に
→キーポイントA.人的資本の「開示」に大きくかかわる
開示をすることによって、投資家や社会との人的資本に関する対話が進むでしょう。一方でさまざまな指標が比べられることになり、人材獲得競争に拍車がかかる可能性はあります。よって、未上場企業であっても影響が大きいと思われます。
- (3)大変化時代の事業戦略の視点……有限な人的資本をいかに伸ばしていくか
- (4)組織風土の視点……組織風土をいかに変えていくか
→キーポイントB.人的資本の価値向上のための「活用・改善」にかかわる
人的資本は伸び縮みするため、活用改善の成否が企業の競争力に直結します。
開示に関する注目が集まる中、特に(1)社会的役割(2)企業価値評価への注目度が上がっていますが、(3)大変化時代の事業戦略(4)組織風土の視点を忘れがちになっているのではないでしょうか。
人的資本は「資本」の言葉が使われている通り、「人的リソース(資源)≒人材、人件費」とは異なります。
資源は、既にあるものであり、ある程度は一定です。金山の埋蔵金の量が変わらないのと同じです。一方「資本」は伸び縮みします。ここが、人的リソース(資源)と人的資本の大きな違いです。つまり、「人的資本は増減する」というところがポイントです。
増減しないものであれば開示して終わり、になりますが、人的資本経営とは、継続的に「開示」しつつ(キーポイントA)、いかに人的資本を「活用・改善」(キーポイントB)するか、が重要になります。
人的資本の活用・改善による価値向上は、企業の競争力に直結します。特にキーポイントBは、今後長期にわたって開示をしていくにあたって重要性が上がるでしょう。
そして、さらに視点3と4に関しては、「健全な組織風土」と「心理的安全性」が土台になってきます。
心理的安全性とは、「組織の中で自分の考えや意見を、安心して発言できる状態」です。組織の心理的安全性がないまま、人的資本を活用・改善しようとしても、組織が「笛吹けど踊らず」状態となってしまい、開示に値するような改善や活用のスピードが落ちる要因となります。
このことを理解した上で、開示に取り組む必要があります。
具体的にどんな項目の開示が求められているのかについては、内閣官房から出ている「人的資本可視化指針」が最新で詳しいものとなっています。
開示項目としては、大きく2種類の開示が求められています。
- (1)自社固有の戦略やビジネスモデルに沿った独自性のある取組・指標・目標
- (2)比較可能性の観点から開示が期待される事項
最近は多くの企業の担当者の方から、開示項目についてご相談いただく機会が増えてきました。中には株価形成上、機関投資家との対話が重要だとして悩んでいる担当者の方もいました。
一方で、「上場企業を中心に人的資本が開示されることによって、自社にどんな影響があるのか分からない」と話す未上場企業の経営者の方もいました。また、上場企業の中でもプライム市場に属していないような小型株の場合はどう開示していくべきか、という議論もあります。機関投資家との対話が少ない上場企業も、世の中には数多くあります。
企業規模や上場しているか否かによって、「人的資本の開示」に関する温度感が全く異なっている状況です。図にまとめてみると、以下のように整理できるでしょうか。
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