「ボーナスに不満な社員」に対し、経営者がやるべきたった1つのこと:7割が不満(3/3 ページ)
今年も多くの会社で年末ボーナスが支給されましたが、会社員の中には支給額に対して不満を持つ人も多いようです。こうした社員の不満を抑える方法について考えます。
評価では公正さを印象付けることも必要
ボーナスを決めるための評価はもちろん公正に行うべきです。しかしそれだけでは不十分です。公正であると印象付けることも必要です。
評価には次のような手続きがあると、評価される側からみた公正感が高まることが明らかになっています。
- (1)評価の前に被評価者から情報や意見などを求めること
- (2)面談中に評価者と被評価者の間で双方向のコミュニケーションがあること
- (3)下された評価結果に対して被評価者が異議申し立てできること
- (4)評価者が被評価者の職務内容について十分な知識を持っていること
- (5)評価者が一貫した評価基準を適用すること
(1)評価の前に被評価者から情報や意見などを求めること、実際には自分の意見が評価に影響していなくても、影響していると思わせる効果があります。あるいは評価に影響していなくても、「私の上司の評価は正確で公正だ」と思わせる効果もあります(柳澤さおり『人的資源マネジメント』2010年、白桃書房)。
(3)の、異議申し立て制度はぜひ導入するべきです。スポーツの世界では近年、「チャレンジ」や「リクエスト」など、判定に対する異議申し立て制度が普及してきました。これによって恩恵を受けているのは選手だけでなく審判も同様です。誤審を素直に誤審と認めることができるようになり、誤審で他人に損害を与えたり、恨まれたりするリスクから解放されました。
人事評価にもチャレンジを導入すれば、上司は部下から恨まれるリスクが軽減します。
報酬の一部をボーナスで支給することは合理的か
ところで報酬を全て月給で支払わず、一部をボーナスで支払うことに経済的な合理性はあるのでしょうか。
ボーナスは日本企業独特の慣行です。諸外国では、労働の対価は全額を月給あるいは週給で支払うのが原則です。ボーナスに、企業にとって利用する価値があるのなら、世界中の企業が利用しているはずです。そうなっていないのはなぜでしょうか。
1995年に日本の製造業を対象に行われた研究では、「競合他社がボーナスを据え置いたときに自社のボーナスを10%引き上げると、翌年の生産性を1%押し上げる」という結果が出ています(大湾秀男・須田敏子『なぜ退職金やボーナス制度はあるのか』『日本労働研究雑誌』2009年4月号所収)。
財務省の「法人企業統計調査」によると、日本の製造業の、生産性に対するボーナスの割合は11.0%です。生産性の11.0%であるボーナスを10%引き上げるということは、生産性の1.1%を追加的に流出させることです。生産性の1.1%を追加的に流出させることによって生産性を1%押し上げるのでは、差し引きで利益が0.1%減ってしまいます。
あるいは、2010年に行われた研究では、特定の一企業のデータではあるものの、直近に支給されたボーナスの額は労働意欲を有意に(偶然とは言えない範囲で)高めるという結果が出ています。ただし利益や付加価値といった財務指標に与える影響までは推計されていません(柿澤寿信・梅崎修『評価・賃金・仕事が労働意欲に与える影響―人事マイクロデータとアンケート調査による実証分析』、『日本労働研究雑誌』2010年5月号所収)。
いずれにしても、報酬の一部をボーナスとして支給することは、会社側にとって特に有利なことではなさそうです。
まとめ
経営者はせっかく支給したボーナスで社員から不満を持たれないために、会社業績と個人成績からボーナスが決まる経路をガラス張りにするべきです。人事評価は公正に行うことはもちろん、公正であると印象付ける努力も必要です。ただし皮肉な話ですが、報酬の一部をボーナスとして払うことに、会社の業績を押し上げる効果はあまりありません。
著者紹介:神田靖美
人事評価専門のコンサルティング会社・リザルト株式会社代表取締役。企業に対してパフォーマンスマネジメントやインセンティブなど、さまざまな評価手法の導入と運用をサポート。執筆活動も精力的に展開し、著書に『スリーステップ式だから、成果主義賃金を正しく導入する本』(あさ出版)、『会社の法務・総務・人事のしごと事典』(共著、日本実業出版社)、『賃金事典』(共著、労働調査会)など。Webマガジンや新聞、雑誌に出稿多数。上智大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。MBA、日本賃金学会会員、埼玉県職業能力開発協会講師。1961年生まれ。趣味は東南アジア旅行。ホテルも予約せず、ボストンバッグ一つ提げてふらっと出掛ける。
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