元市議・市長に聞く 「子育て支援」ばかりアピールする自治体を手放しに称賛できないワケ:これからの自治体に求められる視点とは?(1/4 ページ)
住民サービスの違いで、自治体の明暗が分かれる時代になっている。街選びの視線が年々厳しくなる中で、選ばれる街になるにはどうすればいいのか。元川崎市議の小田理恵子氏と和光市長を3期務めた松本武洋氏に聞いた。
今では当たり前に思われているが、「街選び」はバブル崩壊後に生まれた概念だ。バブル期には「どんな街に住みたいか」よりも、「どこに買えるか」が優先されたためである。その後、時代の変化とともに街選びの要件が広がってきた。
2000年施行の地方分権一括法により、従来は全国一律に近かった行政サービス(あまり使いたくない言葉だが)に変化が起きた。自治体による差が生じ、以降はどんなサービスがあるかを比較する流れが生まれた。11年の東日本大震災では、住む場所により被害の様相が異なることが周知され、近年頻発する浸水被害では地形、地盤など土地に留意する人も増えた。
これからの街選びでは、「街の将来」という観点は重要なポイントだろう。これまであまり考えられてこなかった点だが、今後は都市部でも人口減などによる発展の停滞、あるいは衰退があり得ることを考えると、要件の一つになり得る。
最近は、首長が独自の施策を行うことで人口が増加、あるいは人気が出た例もあり、首長を「経営者」、自治体の施策を「事業」を考えると、自治体を経営という視点から見ることもできる。では、どこを見れば良いのだろうか。
首長に求められるのは短・長期織り交ぜた視点
筆者も含め、一般、メディアの多くは自治体が手掛ける施策のうち、子育て支援に目がいきがちだ。実際、兵庫県明石市のように市長の独自の子育て支援で人口が増加、人気になった自治体もある。
だが、それが長い目で見たときに、本当に街のためになっているかどうかは分からない、と政治、自治体行政に詳しい専門家は口をそろえる。
「街づくりは10年以上、あるいはそれ以上しないと成果は分かりません。その一方で首長は任期4年という短期に成果を求められます。そのため、子育て支援など短期で成果が出やすい施策で“花火”を上げる必要もあるものの、それだけに予算を使い、橋や道路など地味なインフラ系予算を削っているとしたら、その結果は10年後、20年後の橋の崩落や水道管破裂などにつながります。でも、その時には当時の首長はいない。個別の施策だけでは可否は分からないのです」
こう話すのは、11年から2期8年、川崎市議会議員を務め、現在は一般社団法人官民共創未来コンソーシアムで代表理事を務める小田理恵子氏。同法人が運営するパブリック人材向けメディア「PublicLab(パブラボ)」では、全国の首長インタビューを掲載しており、小田氏はさまざまなタイプの首長がいることを実感している人物でもある。
「住みやすい街」の条件
21年まで埼玉県和光市の市長を3期務め、現在は広島県にある安田女子大学の教授を務める松本武洋氏も、短・長期の政策のバランスの重要性を指摘する。
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