値上げしたスシロー、値上げしなかったサイゼリヤ…… 話題のトピックから見えた外食産業の苦悩と未来:長浜淳之介のトレンドアンテナ(6/6 ページ)
2022年の外食産業で話題になった出来事を振り返る。コロナ禍から復活しつつあるが業界が抱える“苦悩”も見えてきた。今後の動向は?
DXをどう導入するのか
22年は外食へのDX導入の在り方が問われた年でもあった。
コロナ禍での需要を開拓するために、非接触を徹底した「ブルースターバーガー」が22年7月31日に全店閉店した。同店は、店頭のタッチパネルと、モバイルオーダーで注文を受け、決済は現金を受け付けずキャッシュレス。店内飲食は最小限にとどめて、テークアウトとデリバリーに特化した、
ブルースターバーガーは「焼肉ライク」がヒット中のダイニングイノベーション(東京都渋谷区)の新業態で、20年11月10日、東京の中目黒にオープン。フードテックを駆使して経費を削減し、その分の原価率を上げて、低価格・高品質のハンバーガーを実現した。当初の反響はすさまじく、店頭のタッチパネルで注文を受けてから、2時間待ち、3時間待ちも当たり前であった。
ところが、全国に2000店を展開するはずが、最大で4店にとどまった。
失敗の要因は単純に言い切れないが、飲食DXに詳しいレストランテック協会(東京都千代田区)山澤修平代表理事は次のように分析する。
ブルースターバーガーは、ITを駆使した業務効率化にとどまらず、ビジネスモデルの変革に向かっていた。しかし、その手前の段階で、原材料の高騰などの想定外の外的環境変化の影響により、撤退を余儀なくされた。蓄積されたデータを活用しての顧客満足度向上へと到達する道を阻害する、コスト高が痛かった。
また、飲食店向けオンライン予約システムのテーブルチェック(東京都中央区)の谷口優代表取締役は、「接客不要のシステムには、何を注文すべきか悩んでいる顧客にアドバイスができないし、単価が上げにくく、リピートにつながりにくい。新規顧客の獲得に広告を投下しつづけなければならない」と指摘する。接客を省けば、広告費の負担がかさむのだ。
国内発のフードデリバリー、Chompy(チョンピー、東京都目黒区)大見周平代表取締役は、アプリの性能や使いづらさに問題があったとする。App Storeのスコアはリリース時には2.0前後、リニューアル後も1.3と、非常に評価が低かった。
外食DXの専門家から見ると、完璧に見えたブルースターバーガーのシステムには改善すべき点が多々あったことが見えてきた。最終的には、店内飲食のスペースを充実させたり、現金でも注文できるタッチパネルを用意したりと、コンセプトがブレていた。ブルースターバーガーは反省を踏まえ、ぜひ再チャレンジに挑んでほしい。
フードテックとしては、22年は配膳ロボットが本格的に普及した。ガスト、ジョナサン、バーミヤンなどのすかいらーくグループでは、ネコ型ロボットが「店員」の一員として活躍する姿を見るようになった。焼肉の和民、寿司・和食の「がんこ」の店舗などでも、有効活用されている。23年は、調理ロボットなども含めて、さらにフードテックが進み、それらを効率的に管理して生産性を上げるスマート飲食店が増えるだろう。
以上、22年を振り返り、23年の外食に関して、若干の予想をしてみた。さらなる値上げ、人手不足は続くが、フードテックの活用が進み、インバウンドには大きな期待が持てる。
付け加えれば、和食人気を背景に、外食の海外進出が一層加速するだろう。既に「丸亀製麺」では世界で最も売り上げが大きな店は、ハワイの店舗だという。
著者プロフィール
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。著書に『なぜ駅弁がスーパーで売れるのか?』(交通新聞社新書)など。
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