田園調布は本当に「オワコン」なのか 今あえて、「お屋敷街」に注目すべき理由:かつては「住むことがステータス」だったが(1/4 ページ)
かつて栄華を誇ったお屋敷街だが、職住近接や利便性の追求などのトレンドの中で、ブランド力を落としているエリアも多い。果たして、お屋敷街はもはや「オワコン」なのだろうか。
コーナー:くらしアップデート
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時代によって人々に好まれ、住みたいと思われる街は変わる。「都心回帰」が指摘され始めた1990年代後半以降は「利便性」が最優先された時代だが、東日本大震災やコロナ禍を経て状況は変わりつつある。そんな中、あえて今、注目したいのが戦前に開発された、いわゆる「お屋敷街」と呼ばれる、あるいは呼ばれた街である。
そうした街は、かつて住むことが一種のステータスとされていたが、職住近接や利便性の追求の中で人気やブランドが埋もれてきた感は否めない。例えば代表格として広く知られているのは田園調布だが、昨今は高齢化や空き家問題が表面化しているようだ。
果たして、お屋敷街はこのまま「オワコン」化してしまうのか。筆者はそうは考えない。本記事では、そもそもの成り立ちや、あえて今、注目すべき理由を解説していく。
「お屋敷街」は3つに分類できる
一口にお屋敷街といっても、成立状況や立地を基に、首都圏のお屋敷街は大きく3種類に分けられる。一つは、江戸時代の大名屋敷を引き継いだ明治の華族などの所有地を利用したもので、都心立地が中心になっている。
1920年代以降の分譲が多く、例としては麹町平河町(河瀬子爵邸)、麻布宮村町(井上侯爵邸)、麻布笄町(黒田子爵邸)、南麻布仙台坂(松方公爵邸)、駒込明神町(木戸侯爵別邸)などが挙げられる。現代同様、相続などにあたって売却されているものも少なくない。
もう一つ、大正期にはごく一部の富豪が広大な土地を占有していることに対して批判が多く、それを受けて大正半ばから関東大震災にかけて、富豪の土地開放(当時は宅地として分譲することを「開放」と称した)が相次いだ。大正デモクラシーという言葉もあるように、社会貢献という意識が強かった時代だったのだ。
大正期の「土地開放」 大和郷、近衛町など今もブランド力ある地域も
大正期における土地開放の例としては、駒込駅南側、六義園西側の「大和郷(現在の文京区本駒込6丁目)」と呼ばれる住宅地がある。ここは柳沢大和守吉保が江戸幕府5代将軍の徳川綱吉から下屋敷として拝領した土地で、その後に築かれたのが六義園だ。明治になって、隣接する他3家の屋敷跡地も併せて三菱財閥の岩崎弥太郎が購入した。それを岩崎久弥が1922(大正11)年に宅地として分譲したのが、大和郷である。
同様の例として、現在の新宿区下落合2丁目近辺も挙げられる。近衛文麿公爵が1922年に落合近衛町(現在の新宿区下落合2丁目)の約2万坪を開放したものだ。デベロッパーはここを「近衛町」として、同時期に堤康次郎(西武グループ創業者)が隣接エリアで分譲した「目白文化村」第一期よりも高額で分譲している。現在、当時の地名は残っていないが、近衛邸跡地周辺には近衛町の名を冠した高額マンション、大企業が福利厚生施設として使っている東京都選定歴史的建造物が残されている。
「田園調布」だけじゃない、戦前開発のお屋敷街
お屋敷街の3分類として最後に紹介するのが、主に関東大震災前後から以降にかけて鉄道会社、デベロッパー、信託会社などが土地を購入、整備して分譲するという形で作られた住宅地である。代表的なものとしてはお屋敷街といったときに多くの人が思い浮かべるであろう、渋沢栄一が作った田園都市株式会社が開発した大田区の「田園調布」がある。
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