田園調布は本当に「オワコン」なのか 今あえて、「お屋敷街」に注目すべき理由:かつては「住むことがステータス」だったが(3/4 ページ)
かつて栄華を誇ったお屋敷街だが、職住近接や利便性の追求などのトレンドの中で、ブランド力を落としているエリアも多い。果たして、お屋敷街はもはや「オワコン」なのだろうか。
例えば、東急東横線の菊名駅近くには駅開業後すぐに東京横浜電鉄(現・東急電鉄)が開発した約2万4000坪の分譲地がある。現在の「錦が丘」という地域で、もともとはこの分譲地内に駅が作られる計画だった。
この錦が丘、古い桜並木などもある住宅地で、今も地域ではそれなりに知られているが、地元の人以外にはあまり認知度が高いとはいえない。都心部以外ではこうした、かつては有名だったけれど今では地元のみでしか知られていないというお屋敷街が少なくない。
その理由の一つとして、当時は「利便性」よりも「住環境」を優先して宅地開発が行われた点が挙げられる。今ではあまり想像できないが、江戸時代はもちろん、明治、大正期の都心部の住環境は実にひどかった。工場からの騒音、振動に煤煙、排水に排気ガスが加わり、衛生状態も悪かった。明治から大正にかけてはしばしばコレラが発生し、多いときには10万人を超す死者が出たし、台風による水害もあった。
そこで、当時に土地を買って家を建てられるような人たちは、広々とした高台の静かで空気のきれいなところに住みたいと切望したのであろう。実際、田園調布を分譲した田園都市株式会社が1923年に編集した冊子『田園都市案内』では、田園都市の特徴を7点挙げているが、そのうち、冒頭の2点は立地に関するものだ。いわく、「土地高燥にして大気清純なること」と「地質良好にして樹木多きこと」。利便性よりも住環境だったのである。
利便性が考慮されなかったのは、当時の暮らし、商習慣によるものも大きい。戦前に家を買うくらいの層であれば、お手伝いさんがいる世帯が多かったし、御用聞き、配達も一般的だった。商店、商店街が近所にある必要は全くなかったのである。
今こそお屋敷街に注目するべき
一方、戦後は住宅に利便性を求める傾向が年々強まってきた。特に都心回帰が指摘され始めた1990年代後半以降は利便性が最優先され、駅前に立地するタワーマンションに人気が集まるようになった。前述の田園調布とそこから2駅先の武蔵小杉を比べてみると、住宅や住宅地に求めるものが時代とともに大きく変遷してきたことがよく分かる。
そのため、戦前に開発された住宅街の中には利便性に欠けるとして衰退し始めているところも見受けられるようになってきた。お屋敷街の代表格といわれる田園調布ですら、駅に近いところはまだしも、少し離れると手入れの行き届かなくなっている住宅、長らく市場には出ているものの売れない住宅なども見かけるようになっている。
だが、東日本大震災を経て、さらにコロナ禍を受けて社会が動き始めている今、これからの住まいを考える際には現時点で少し忘れられかけている戦前に開発された旧お屋敷街を見直してみてもよいのではないかと考えている。理由は大きく2つある。
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