男性でも「化粧ポーチ」「レディースコート」 ジェンダーフリーファッションが拡大する背景:着こなす事例が増えている(3/4 ページ)
ジェンダーフリーファッションがじわじわと広がっている。背景には何があるのか。アパレル業界のコンサルティングを30年以上続けてきた筆者が分析する。
成人式で振袖を着たくない
「成人式といえば振袖」「女性にとっての憧れの場」――というのは私の思い込みでした。実は、トランスジェンダー(出生時点の戸籍の性別が、自身の性同一性と異なる人々)や、セクシュアリティ(人間の性)という点だけでなく、もともとの性別に沿った服装を着たくないという理由で成人式に出るのを諦めた人が大勢いることを最近知りました。
そのきっかけは、1月7日に東京・代官山で開催された「SEIJIN-SHIKI」です。「自分が好きな服装で、ありのままの自分を楽しむ」というコンセプトで開かれたこの会。同会を開催した主催者の一人が、女性の体に合うメンズスーツをオーダーメイドで販売するkeuzes(クーゼス)を立ち上げた田中史緒里さんです。
田中さんはXジェンダー(FtX)。服装が理由で、成人式を諦めた過去があるといいます。同社の公式Webサイトには田中さんがこのブランドを立ち上げた経緯について、詳しく書かれています。
田中さんは幼い頃からカッコいいものが好きで、成人式にもメンズスーツで出たいと思っていたのだそうです。しかし、当時は地方に住んでいて、「お店に行ったら知り合いの親が働いているかもしれない」「店員さんにどう反応されるのか」という怖さから、紳士服専門店に行くこともできなかったそうです。結果、成人式に出るのを諦めました。その後、上京しましたが、20代の頃に友達の結婚式に招待され、再び「何を着ていけば良いのか?」という問題に直面したそうです。
「服装によって何かを諦めている人が、世の中にはたくさんいるかもしれない。そんな人たちの助けになりたい」
当時23歳だった田中さんは、女性の体に合うメンズスーツブランドを立ち上げようと考えます。洋服づくりについて素人だった田中さんは、50以上の工場に「女性向けのスーツをつくってほしい」と掛け合いますがことごとく断られます。パターンをゼロから引き直してスーツをつくるというのは、工場にとっては手間がかかることです。女性の体に合うスーツが売れるのかどうかが分からない。分からないものはつくらないとなっていたのでしょう。
しかし話を聞いてくれるところが1社だけありました。そんな悩みがあるならつくってみましょうということになったのです。
女性の体で従来のメンズスーツを着ると、スーツはブカブカになることが多いです。男性用スーツは男性の体にあわせてパターンを引いているので、女性の体には似合わないのです。そこで、骨盤周辺が強調されないようにウエストから骨盤までのラインを広げたり、ジャケットの着丈を長めにつくったりしました。そして、田中さんなりのアイデアで、女性のサイズ感でカッコよく着られるメンズスーツをつくり上げました。それがオランダ語で「選択肢」を意味する「keuzes」ブランドです。
同社のスーツはオーダーで最低価格が8万9000円(税別)から。スーツとしては高く感じるかもしれません。しかし、顧客のもとに出向いて採寸し、100種類の生地の中から選び、細かな要望にあわせて自分だけのスーツをつくってくれるオーダースーツであることを考えたら、決して高くはありません。
相談できる店や相手がいないことで悩んでいる人にとって、田中さんがはじめたクーゼスは、非常に心強いサポーターになっているのではないでしょうか。
この他にもオーダーシャツや、生理用ナプキンがつけられるボクサーパンツなど、顧客の声をもとにした商品を次々と開発しています。
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