法改正から3カ月 男性育休を増やすために、企業が本当にやるべきこととは?:プロが解説(3/3 ページ)
2022年10月に、育児介護休業法が改正されました。今回の改正は特に「男性の育休取得率を上げたい」という政府の方針が表れているといってもよいでしょう。今回は実際に法改正が施行された後の企業の対応や、男性育休の実態について解説します。
「通常育休」と「産後パパ育休」の違い
22年10月に「出生時育児休業」(以下、「産後パパ育休」)が新設されましたが、従前から設けられている「育児休業」(以下、「通常育休」)との違いについて認識している従業員は少ないでしょう。そのため、育児休暇の取得を希望する際に人事部などから、これらの制度の違いについて説明をする必要があります。
「通常育休」の原則的な要件は、「1歳に満たない子どもを養育する労働者」で、これまでは特別な事情がない限り分割して取得することはできませんでした。しかし、今回の法改正により、特別な事情がなくとも2回に分割取得ができるようになりました。
また、「産後パパ育休」は産後限定の制度のため、「子の出生後8週間以内」の中で「28日間まで」という縛りがある制度になっています。なお、こちらも2回分割取得が可能となっています。
どちらの制度についても、休業中は社会保険料(健康保険・厚生年金保険)が免除となります。雇用保険の制度に基づいて支給される育児休業給付金を受給するための要件についても、制度別の差はありません。なお、休業したい期間が「産後パパ育休」の要件に該当するのであれば、「通常育休」の取得権利も残すことができるため、基本的には要件の狭い「産後パパ育休」から充当する方を推奨します。
ただし、育児休業給付金の「受給額」に関しては、「通常育休」の方が「産後パパ育休」より高くなるケースがあるため注意が必要です。育児休業期間に一部給与を支給する会社や、「育児有休」の制度がある会社が該当する可能性があります。
なぜなら、雇用保険法上、休業中に給与(育児有休代を含む)が一定基準以上支払われる場合、育児休業給付金の額を下げることで調整する仕組みがありますが、その調整対象とみなす給与の範囲が「産後パパ育休」と「通常育休」で微妙に異なるからです。これは、普段手続きに従事していない人にとっては精査が難しい部分ですので、必要に応じて専門家に確認することをおすすめします。
「産後パパ育休中」の一部就業に消極的なワケ
今回の法改正では、会社が労使協定を締結することで、「産後パパ育休中」に一部就業を可能とする制度も新設されました。実際に就業をするためには、「産後パパ育休」開始日の前日までに、就業日と時間帯を会社と本人で合意決定する必要があります。さらに、就業日数と時間については「所定労働日・所定労働時間の半分まで」という上限が設けられています。
22年10月から施行されたものの、現時点で労使協定を締結することで就業可能とすることに積極的な会社は決して多くありません。なぜでしょうか?
理由としては、もともとの出勤頻度や勤務時間の半分しか働くことができないという点で、職種によっては企業側に需要がないこと、事務手続きが煩雑となることが挙げられます。具体的には、社会保険上の手続きの場合、保険料が免除となる要件の精査に負荷がかかります。
例えば、給与に対する保険料の免除を受けるためには、(1)その月の末日が育児休業中であること、という要件に加え(2)(1)に該当しなくても、育休の開始日と終了日が同月内にあり、かつその日数が14日以上である、という要件がありますが、(2)の「14日以上か否か」については育休期間の日数から就業日数を引いて計算しなければなりません。企業側が制度導入を検討する際には、このような運用上の業務負荷についても考慮する必要があります。
前述した通り、23年から大企業は育休取得率の公表義務が課せられます。この公表に際しての取得率の計算は、1日でも育休を取得していれば育休取得者として計算されるため、休業期間の長さは関係ありません。
しかし、最近の若い男性就労者や就職活動中の学生の中には、以前と比較すると、ある程度まとまった期間育休を取得したいと考える人も増えています。育休を取得しやすくすることにより、働きやすい会社作りを目指すのであれば、取得率アップのための働きかけだけでなく、本人の希望する期間で育休が取得できるような社風や環境を作っていくことが重要なのではないでしょうか。
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