ヤマハが試しにつくった「エレキ」が面白い “牛肉の部位”に見えてきた:水曜日に「へえ」な話(3/3 ページ)
ヤマハがちょっとユニークなことに取り組んでいる。楽器の制作工程で使われなかった木を集めて、エレキギターを完成させたのだ。それにしても、なぜわざわざ手間のかかることをしたのか。その秘密を担当者に聞いたところ……。
「アップサイクル」が入り口
音も問題なし、耐久性もいまのところは大丈夫。となれば、気になるのは発売のタイミングである。この質問に対して、担当者は「その予定はありません」ときっぱり。それはそうだ。たくさんの工場を回って、使われなかった木を集めてつくった。ということは同じコンセプトのモノをつくることはできても、商品として2本目、3本目……といった形で量産化することは難しい。
では、何のために“世界に1本しかつくれないモノ”を開発したのだろうか。冒頭でも紹介したように、「未来のため」である。ちょっと話がそれてしまうが、モーターショーを想像してほしい。最新の技術をたくさん詰め込んで「近い将来、こんなクルマが登場するかもしれませんよ」といった感じで紹介しているわけだが、今回のエレキも同じようなコンセプトである。
使われなかった木を、寄せ集めて完成させた。この知見は引き継がれて、未来の商品のどこかに詰め込まれているかもしれない。……と、このような話を紹介すると、勘のスルドイ読者は「他の楽器でも、同じことができるのではないか」と感じているのかも。その通りである。ヤマハは電子ピアノでも同じようなアプローチで、これまでになかったモノを生み出していたのだ。
いや、少し違う。エレキギターの開発は研究の一環として始めたわけだが、電子ピアノは「アップサイクル」が目的である(エレキも結果的には、アップサイクルという形になった)。アップサイクルとは、捨てられるはずだったモノに新しい価値を与え、よりよいモノに生まれ変わらせること。2〜3年ほど前から事例が増えていて、ヤマハは木材の切れ端や粉を加工した素材を使って、これまでになかった電子ピアノを完成させたのだ。
一般的な電子ピアノのボディはMDF(中質繊維板)と呼ばれる合板でつくられていて、表面は塩化ビニール素材を貼っている。これに対し、試作品では塩化ビニールではなく、自然由来のワックスを塗って仕上げた。このほか、黒鍵は楽器を加工する際に発生する木粉を使ったり、白鍵はプラスチックの使用率を30%まで削減したり。結果、アンティークな雰囲気が漂うピアノが生まれたのだ。
ちなみに、こちらの電子ピアノも販売する予定はないそうで。ただ、今後も「捨てる予定の木を使って、これまでになかった形の商品をつくることはできないか」といった研究は重ねていくそうだ。
エレキギターと電子ピアノの取り組みを見ていると、従来の常識では考えられなかった楽器が、いつの日か登場しそうである。いや、その足音はすでに“聴こえて”いるのかもしれない。
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