日本の外食文化は「迷惑動画」で破壊されてしまうのか? スシローとくら寿司で見かけた心強い光景:長浜淳之介のトレンドアンテナ(6/6 ページ)
外食チェーンで相次ぐ「迷惑動画」。各企業は対応に追われている。日本の外食文化にどういった影響を与えるのか。
外食文化への影響
さて、このような「すしテロ」によって、安価で質の高いサービスを提供している日本の回転すし文化、外食文化は終わってしまうのか。
現状の回転すし店の集客を見る限り、むしろ増えている店もある。
東京都立川市内のスシローに2月に入ってから2回ほど訪問したが、高校生、大学生くらいの若い人たちを中心にむしろ行列ができていたほどだ。野次馬的な好奇心で来店している面もあるのかもしれないが、善良な高校生、大学生が目を光らせることで、同年代がくだらない投稿をしなくなる効果も期待できるだろう。
ちいかわのキャンペーン効果もあるが、くら寿司も行列ができるほどにぎわっている店が多い印象だ。
お店で急に見なくなったのは、むしろ中高年だ。「気持ち悪いから回転すしにもう行かない」というワイドショーに影響されたのだろうか。
今後、騒動が大きくなるのを面白がって、人の目の届かない場所で新たな迷惑行為をして投稿する人が出てくる可能性もある。テロに屈しない最善の方法は、いつも通り普通に過ごすことだ。
一方で、今まで利用しなかった人も含めて、社会的に影響力がある著名人や芸能人が次々と回転すしチェーンを訪れ、動画などで報告しているのはうれしいことだ。
実業家の堀江貴文氏らが指摘しているが、上場している外食企業の飲食店でいたずらをして動画に投稿しただけで株価が暴落するのならば、それを悪用しようとするケースも出てくると考えられる。
完全に迷惑行為を止めさせたいのであれば、各席に監視員を置いて、営業時間中にずっと見張る必要がある。しかし、人件費がかさみ、すしの値段をもっと上げなくてはいけなくなる。要は普通のすし屋の値段を取らなければ成立しなくなる。
回転すしは効率性を上げるため、機械化を進めてきた。安いすしを腹いっぱい食べたいという顧客の要望に応えるためだ。回転レーンにしても、回転しない特急レーンにしても、エンターテインメントとして成立している点で非常に優れている。
機械化が進み過ぎて省人化されたために、監視の目が行き届かなくなったのがいけないという意見もある。それなら、もっと運営会社が人を雇えるように、回転すしに限らず外食の大幅な値上げを容認することだ。昨今は変わってきたが、それまで1円の値上げも嫌だと消費者は拒否してきたが、限界に来ている。
すしテロは、性善説に基づいた回転すしシステムを崩壊させるといわれているが、若い人たちが店に行って崩壊を防ごうとしている。悪さをする若者ばかりいるわけではない。
中高年がデフレに慣れて、「外食の大衆店は安くてうまい」「清潔なのが当たり前」と思ってしまったが、やはり無理がある。日本の外食が安過ぎるのが問題ではないだろうか。
いずれにしても、被害に遭った各社は、謝罪に来たからといって安易に許さず、警察に通報し、刑事と民事で訴える強い姿勢で臨んでいる。
10年ほど前も似たようなことがあった。学生アルバイトによる店舗へのいたずら行為(いわゆる「バカッター事件」)も、損害賠償を求めた裁判沙汰によりいったん収束するが、4年ほど前にも別の事件が起こっている。
今回のすしテロ事件も、同様に収束に向かうと思われるが、しばらくすればまた起こるだろう。セルフサービスの一部が見直されて、外食はもう少し人が提供するサービスを重視する方向に向かう。外食の価格が全般に、原材料高も含めて、さらに上がるのではないだろうか。
(※編集部:記事中に掲載した全ての画像は、迷惑行為が発生した店舗のものではありません)
著者プロフィール
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。著書に『なぜ駅弁がスーパーで売れるのか?』(交通新聞社新書)など。
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