イオン、パート「7%賃上げ」の衝撃! 「レジ打ち」が減った職場で起きる大変革とは:大手が続々時給UP(3/4 ページ)
イオングループが自社のパート40万人の時給を7%引き上げると発表。イオンでも働き方が大きく変わり、他業界にも大きな影響がある。
イオンの稼ぐ力
人件費だけが上がり、売り上げや利益が上がらないとしたら企業は人件費倒れになってしまいます。企業が人件費増に慎重になる最大の理由はここにあります。では、イオンがこのタイミングでパート時給を7%引き上げようと決断できたのはなぜなのでしょうか。
それは同社の収益力を見ると分かります。
イオングループの収益力は企業(業種)によってマチマチというのが実態です。全ての企業がもうかっているわけではありません。
22年3〜11月累計の連結決算を見ると、主力のGMS業態、イオンリテールは136億円の赤字です。稼ぎ頭だったアミューズメントのイオンファンタジーも赤字。一方でドラッグストアのウエルシアHDは314億、ディベロッパー事業のイオンモールは324億の黒字です。これまで主力業態として同社を引っ張ってきたGMSやSM(スーパー)が苦戦していて、比較的新しい事業や成長業種が収益を引き上げています。小売り業態は前期からは復調の兆しもありますが、GMSやSMなどは従業員の生産性を高めていかなければ生き残りが難しい状況にあります。それを支える優秀な人材の確保、流出防止をしなければならないという切迫した状況にあるのです。
イオンでは今回の賃上げを「会社の大きなターニングポイントになる」との見方が強く、今回のパートの賃上げを「現場の営業力を上げることで企業価値を上げるための投資」と考えています。この現場力引き上げのポイントとしているのがDXです。営業利益が上がっていないGMSなど、同社のこれまでの主力業態の店舗人件費の3割程度はレジスタッフの人件費です。この店頭での人件費が今後も同じようにかかり続け、売り上げが上がらない状態のままだとしたら、収益改善は難しくなります。
ではイオンの現場を支える食品レジパート時給は現状ではどの程度なのでしょうか。
全国のイオングループのGMSやSM各店舗の食品レジパート求人時給を調べてみました。
各店舗の時給をランダムにピックアップしてまとめてみました。地域や業態によって時給に差はありますが、イオンの食品レジパート平均時給は1066円です。この時給を7%アップさせると1141円になります。実質的な時給引き上げは75円です。
年収の壁問題(106万、130万で社会保険料発生)があるため、一律、年収が増えるような状況になるかは分かりません。しかし、7%アップ後の時給は、特に地方都市の店舗では魅力的に感じられるでしょう。
つまり、同じレジパートの仕事をするならイオンを選ぶという人もでてくる可能性がある時給です。
優秀な人材を採用するという点で、今回の7%アップは同社の人材採用に貢献する可能性があります。
同社の吉田昭夫社長は次のような発言もしています。
「レジ打ちの仕事ではなくて売り場で営業の仕事をしてもらう。トップライン(筆者注:売り上げ)を上げて稼げる体質にする」(出所:日経MJ23年2月18日付「イオン時給7%上げ、吉田社長「売り場で稼ぐ人材作る」)。
実際にイオンの都心店舗ではレジ打ち作業がなくなり始めています。セルフレジやスマホで決済する無人レジの「レジゴー」導入が進んでいるからです。
これまでレジパート従業員が行ってきた単純なレジ業務などはDX化して、生産性を上げて、現場での顧客との接点を増やして売り上げ拡大につなげていくというのがイオンの賃上げの狙いです。
つまり、パート従業員も時給が上がると喜んでいるだけではだめということです。今後はそれ相応の働き方に対応し、稼げる人材に変わっていかなければ活躍し続けることが難しくなるという意味で、従業員にとってのターニングポイントともいえるのです。
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