「リーマン級」の賃金減が到来 日本の賃上げを阻む「130万円の壁」問題:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)
厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査によると、1月は実質賃金が前年同期比で4.1%減となり、「リーマン級」の水準だった。一部企業では賃上げの動きも出ているが、まだまだ心もとない。その原因は「130万円の壁」にもありそうで……
「130万円の壁」とは、年収が130万円を超えると、所得税や社会保険料が課税されたり、扶養控除が受けられなかったりすることで、トータルの手取りが100万円程度まで落ち込む問題をいう。このことから、意図的に130万円以上は稼がないパートタイマーやアルバイトの人材が存在している。
これらのプレーヤーの影響は、企業の賃上げ圧力を緩やかにする方向へ働きやすいと考えられる。彼・彼女らにとっては時給が上がっても下がっても、トータルの収入上限130万円は変わらない。収入上限のない労働者と比べて、最低賃金近辺での求人に応募することへのハードルが低いのだ。最低賃金でも人が集まるのであれば、企業は積極的に賃上げを行わなくても労働力が確保できるようになってしまう。
130万円の壁は、物価変動を加味していない点でも大問題だ。年金のように物価上昇率に応じて自動的に調整される仕組みがない。政府や国会が改正法案を立案して審議を通しているが、改正には非常に時間がかかるだろう。
実質賃金の考え方を踏まえると、例えば年率10%のインフレが発生した場合、年収130万円の労働者は、それまでの生活水準を維持するために最低でも13万円、合計で143万円まで名目の所得を伸ばさなければならない。そのためには、数十万円以上の収入を増やす必要があり、負担感が強い。130万円の壁があるために、生活水準を切り下げざるを得ないのだ。
足元の状況を踏まえ、国会では一部議員から「壁」を超過した部分を一時的に穴埋め給付する提案も出てきている。しかし、ここ10年ほど毎年のように物価が上昇していることを踏まえると、パッチワーク的な施策ではなく、本質的な観点で物価と連動した合理的な施策への転換が求められてくるのではないだろうか。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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