40〜50代には「正直しんどい」学び直し 政府の投資は、泡と消えるか?:リスキリングを取り巻く現実(1/3 ページ)
政府は「人への投資」を今後5年間に1兆円に拡大し、リスキリングから転職までを一気通貫で支援する。もともと少ない日本の職業能力開発予算を増やすことは重要だが、政府の意図通りに施策は進むだろうか。特に企業のボリュームゾーンでもある40〜50代の学び直しには、立ちはだかる障害が多く……。
岸田文雄首相は1月23日の施政方針演説で、持続的な賃上げを実現するために、リスキリング(学び直し)による能力向上支援を行うと表明した。
具体的には「GX、DX、スタートアップなどの成長分野に関するスキルを重点的に支援するとともに、企業経由が中心となっている在職者向け支援を、個人への直接支援を中心に見直します。加えて、年齢や性別を問わず、リスキリングから転職まで一気通貫で支援する枠組みも作ります。より長期的な目線での学び直しも支援します」と述べている。
政府は「人への投資」を今後5年間に1兆円に拡大し、リスキリングから転職までを一気通貫で支援する制度などを創設。企業などへの助成金の拡充によって個人・企業にリスキリングを促し、労働市場を整備することで成長産業への転職を促進するのが狙いだ。
もともと少ない日本の職業能力開発予算を増やすことは結構なことであるが、「労働移動の円滑化」に結び付くのかどうか、立ちはだかる障害も少なくない。
人への投資は成功するか?
そもそも日本の転職市場は諸外国に比べて脆弱だ。過去1年間に雇用されていた人のうち、過去11カ月以内に現在の雇用者の下で働き始めた人の割合を示す「労働移動の円滑度」の国際比較では、英語や米国は10%であるが、日本は半分の5%にすぎない(内閣官房「新しい資本主義実現本部事務局資料(2022年11月)」)。
その上で新しい資本主義実現会議は労働移動が円滑な国ほど賃金上昇率が高いというデータも同時に示しているが、現在の5%を米国並みの10%に引き上げることは容易ではない。
加えて年功型の給与体系が多い日本では中高年層が転職すると収入が3〜4割程度減少するのは半ば常識であり、賃金上昇につながるといわれてもにわかに信じがたい。
リスキリングの質も問われる。リスキリングとは、個人を主体にした「生涯学習」を反復継続しながら長期間にわたって行うリカレントとは違い、企業内の業務上必要な知識やスキルに関する職業能力の再開発を短期間に行うことだ。
つまり新規事業など企業のビジネスモデルに合致するスキル教育を施すことだが、それを国レベルで実現するには、どういうスキルを修得すれば、どの産業の職種で働けるのかという道筋が明確でなければ、個人のリスキリングへの意欲も湧かないだろう。
厚生労働省の幹部は、この点に関して「就職先がどこになるかということが大変重要だと考えている。就職できても非正規の仕事が中心になってくると、なかなか賃上げに結びかない。実際に労働移動が全体の数としてどのくらいになるのか、これから予算を執行していく段階で整理しながら見極めていく」と言うにとどまる。
賃上げにつながらなくても、近年のデジタル化や新規事情などビジネスモデルの変革で新たなスキルの修得が求められつつある。
しかし、政府が「支援します」といっても、そんなに簡単なことではない。最も大きな課題は社内のボリュームゾーンと言われる40〜50代のミドル・シニア層のリスキリングだ。
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