愛読書は“ギャル雑誌”? 「はにゃ?」「勝たん」――令和版万葉集ヒットの背景:和歌とSNSは似ている?(3/3 ページ)
「はにゃ?」「織姫しか勝たん!」「ワンチャンないで」――。日本最古の和歌集『万葉集』を「令和言葉・奈良弁」で訳した書籍が売れている。なぜ万葉集を若者言葉、しかも奈良弁で訳したのか?
「発行部数7刷9万部」 老若男女から支持
――発売から今までで大変だったことなどはありますか?
佐々木さん: 最初は取次業者の方から「カバーも帯もなくて、何の本か分からない」「売れなさそうだから契約できない」と言われ、どこの書店も取り扱ってくれませんでした。そのため、全国書店と私が直取引をし、何万冊分も自分で伝票書いて、発送しています。
全国の書店3000店と電話でやりとりしていたのですが、反響が大きかったため2カ月くらいずっと電話が鳴りやまない生活でしたね。大変でした……。
――「発行部数7刷9万部」、かなり好調のようですが、販売数はどのように推移しているのでしょうか?
佐々木さん: 「売れないだろう」と考えていたので、最初は500冊しか刷っていなかったのですが、じわじわと売れ始めて、毎月1万冊以上増刷しています。最初は印刷部数が少なかったので、利益率が低く、「1冊当たりの利益が8円」だったことも。
書籍は一般的に発売から2カ月が売れ筋で、そこからは落ちていくとされています。しかし、本作はずっと右肩上がりで伸びていて、発売から7カ月経った今が「1番売れている」――意味が分からない、という状態です。
佐々木さん: 大阪で爆売れしています。正確な理由は分かりませんが、大阪は笑いに寛容なところがあること、奈良弁とはいえ関西弁というところが親しみやすいことが影響しているのではないかと分析しています。
また、意外と年配の方にも売れていて。年配の方は万葉集になじみがある方もいるので、若者言葉の訳を見ながら和歌を読む読者が大半の中で、和歌を読んで若者言葉を学ぶ方もいるのかもしれません。実際に、「孫が話す『ワンチャン』を犬のことだと思っていたが、ワンチャンスのことだったんだと気付き感動した」というはがきをいただいたこともあります。
――最後に今後の展望を教えてください。
佐々木さん: 読者からは「とにかく面白い」という意見が多く集まっています。1番最初の歌が天皇がナンパをしているという内容なのですが、「1300年前のナンパが残るのはデジタルタトゥー」というコメントがあり、めちゃくちゃ面白かったですね。
今回は恋の歌をテーマに絞っており、約80首しか紹介できていません。万葉集にはこの50倍、約4500首の歌があります。「全50巻やって欲しい」という声も多くいただいており、今後はテーマを設けながら、全50巻をやり切りたいと考えています。1年に3冊やっても20年弱かかるんですけどね(笑)
しかし、もし執筆に20年かかったとしても、その20年間のうちに現代語は新しくなります。「ワンチャン」という言葉はなくなるでしょうし、新しいSNSが生まれているかもしれません。新しい言葉が生まれ続ける限り、飽きは来ないのではないかと考えています。
『愛するよりも愛されたい 令和言葉・奈良弁で訳した万葉集1』では令和4年の日本語を残すことができました。「言葉の記録」という観点でも、令和の言葉がまるまる万葉集で残っていったら面白いですよね。
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