暴言に耐えかね「退職」も freeeの「カスハラ対策方針」が悪質クレームに示したこと:3カ月に1回発生(3/3 ページ)
freeeは2月、不当・悪質なクレームについての対応方針を明らかにした。2022年夏にかかってきた脅迫電話がきっかけだったという。カスタマハラスメントによって休職・退職者が出るなど不利益を被ることが続き、対応方針公開に至った。それに至るプロセスや公開による反響などを取材した。
実は、社内からは「反対の声」も
しかし、ここでカスハラ対策室は一つの壁にぶつかる。ガイドラインを守ることは「本当に困っているお客さまを切り捨ててしまう恐れがあるのではないか」と、社内から懸念の声が上がってきたのだ。久保氏も「最も難しかったのは、通常のクレームとカスハラをどう区別するかでした」と認める。
こうした懸念を払拭するためにfreeeが取った対策は、(1)カスハラに該当するキーワードを定義することと、(2)サンプル事例を作成することだった。
まず一つ目の「キーワードの定義」は、先述の9つの行為ごとにカスハラに当たるキーワードをいくつか定めた。
「例えば、ガイドライン7番目の『従業員個人への攻撃、要求』であれば、『殺すぞ』『家に火を付けるぞ』といった言葉が該当します。お客さまが単に『バカ』と言っただけでは、カスハラには該当しません」(久保氏)
また5番目の「差別的な言動」では、個人情報保護法が定める「要配慮個人情報」(人種、信条、社会的身分、病歴など)にあたるワードを一つ一つ具体的に落とし込んでいった。
「サンプル事例の作成」については、何でもかんでもカスハラと誤認しないように、過去に実際にあった不当・悪質クレームから、カスハラにあたるモデルケースを作成した。
どういうシチュエーションで、どのような発言があった場合にカスハラとして認められるのか。抽象的だったカスハラの要件を細かく定義したおかげで、現在のところ「何でもかんでもカスハラになる」という事態は避けられているそうだ。
難しい「クレーム」と「カスハラ」の見分け方
カスハラ対策の運用方法について、久保氏は一部を紹介してくれた
「お客さまがオペレーターとのやり取りに納得がいかず、カスハラにあたるワードが発生した場合、一旦持ち帰らせていただくようオペレーターには伝えています。持ち帰った案件はカスハラ対策室で対応を検討します。カスハラと認定された場合、そのお客さまの対応は次回からお断りすることも視野に入れています」(久保氏)
freeeで発生するクレームのタイプは大きく分けて3つある。通常のクレーム、クレームとカスハラが混じったもの、最初からカスハラの3パターンだ。
どのパターンであっても、基本的に(1)事実確認、(2)顧客が納得するまで説明する、(3)理解してもらう(解決)――という流れは同じだ。クレームはどちらに非があるかどうかにかかわらず、「まずは事実を確認すべき」というのがfreeeの基本的な考え方である。
事実確認する過程で時間がかかってしまったり、意思疎通がうまくいかなかったりすると、通常のクレームからカスハラへ発展するケースも多い。顧客のフラストレーションがエスカレートする中、事実を踏まえた上で冷静に顧客の困りごととカスハラを区別する力が求められる。明確なガイドラインと手順を示したおかげで、社内から懸念する声も消えていった。現在はカスタマーセンターで働くオペレーターの安心感にもつながっているという。
「カスハラ対策室やガイドラインがあるというだけで『安心できた』という感想をたくさんもらっています。オペレーターの中にはベテランの正社員だけでなく、まだ慣れない新人もいます。また弊社には繁忙期に手伝ってくれる業務委託の方もいます。ガイドラインは大勢の関係者の安心感につながるものにしたいと思って作成しました」(久保氏)
freeeでは今後もオペレーター、顧客、協力会社とより良いコミュニケーションのため、ガイドラインを含めカスハラ対策をアップデートしていく考えだ。
カスハラ対策は、顧客との関係づくりの一歩
今年2月に発表されたfreeeのカスハラ対応方針は、社外からも大きな反響を呼び、テレビのニュース番組などでも取り上げられた。SNSでも「共感した」といったポジティブな反応が多く見られた。
久保氏は「カスタマーハラスメント対策を前向きに受け取ってもらえる時代がやって来た」と、追い風を感じとったようだ。これからの抱負として「カスハラ対策は社内だけに終わらず、お客さまや、協力企業様にも優しい世界が広がるきっかけにしたい」と話した。
顧客に本当に価値のあるサービスを提供したいというのが、カスタマーセンター共通の願いだ。「殺すぞ」と言われてうれしい人はどこにもいない。カスハラ対策は顧客や、協力会社とより良いコミュニケーションを築く手段の一つである。全ての関係者のために、企業はガイドラインを含め、対策の検討を強化していく必要があるのではないだろうか。
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