VIP御用達車「センチュリー」→「アルファード」 “先駆者”はトヨタ豊田章男会長だった?:経済の「雑学」
8年ぶりの全面刷新となった高級ミニバンの新型「アルファード」「ヴェルファイア」。トヨタ自動車のデザイン部門のトップが豊田章男会長に関して、「アルファードから降りてきた章男さんを見て、仰天した」とするエピソードを披露した。
「アルファードから降りてきた章男さんを見て、仰天した」──。8年ぶりのフルモデルチェンジとなった高級ミニバンの新型「アルファード」「ヴェルファイア」の発表会見で、トヨタ自動車の幹部がこんなエピソードを披露した。話し手はサイモン・ハンフリーズ取締役。同社のデザイン部門のトップだ。エピソードに登場する「章男さん」はもちろん、同社の豊田章男会長を指すのだが、一体どういうことなのだろうか。
専務時代に「センチュリー」から乗り換え
ハンフリーズ氏によると、豊田会長は専務時代の2004年、送迎車をセダンタイプの高級車種「センチュリー」からアルファ―ドに変更。取引先企業を訪問したところ、関係者から「もうすぐセンチュリーに乗ったVIPが来る! 早く道を開けてくれ!」とすごい剣幕で、注意されたという。
だが、そのアルファードから豊田会長が降りてきたため、仰天したのだ。無理もない。当時は「VIPの送迎車=セダン」というのが当たり前。特にセンチュリーは価格や維持費が高額になる一方で、皇室関係者の送迎などに利用されることから、安全性と快適性を備えた“VIP御用達”として定着していた。当然、取引先の企業の関係者も豊田会長がセンチュリーで来社すると思い込んでいたのだ。
政界人なども愛する車種に
ハンフリーズ氏は豊田会長がアルファードを選んだ理由について「ワークスタイルに合っていたから」と説明。「広い車内でゆったり仕事ができる。会議の合間にくつろげる。必要ならば着替えだってできる。アルファードは完璧な選択肢だった」とし、実用性の観点からアルファードに乗り換えたことを明らかにした。
1997年に発売された日産「エルグランド」とともに、高級ミニバンの代表格となったアルファードと、その兄弟車種ヴェルファイア。現在2車種は、政治家から会社経営者、映画スターから相撲力士まであらゆる人の送迎車に選ばれているという。
21年7月の兵庫県知事選では、年間300万円という高額なリース代からセンチュリーの公用車見直しが争点の1つになり、当選した斎藤元彦知事が就任後すぐに、アルファードを公用車にしたことも注目を集めた。つまり、豊田会長はアルファードのビジネス利用という流れを作ったパイオニアともいえる。豊田会長は、その後もアルファードを3世代に渡って、送迎車として愛用しているという。
「心を豊かにしようとする空間設計や、どれだけ車内にホスピタリティを盛り込めるかという発想は、まさに日本ならでは。アルファードやヴェルファイアには、あらゆるシーンに配慮した設計など人の幸せを願い、細やかな工夫を重ねる『おもてなし』の心がいくつも詰まっている」(ハンフリーズ氏)
ハンフリーズ氏曰く、アルファードは当初「自動車版のガラケーになるのではないか」と危惧されていたという。そんな同車種を愛した人物は、後に社長として、自動車メーカーとして世界初の販売台数1000万台達成などの偉業を成し遂げ、トヨタを名実ともに「世界一の自動車メーカー」に押し上げた。
創業家の出身でありながら、現場からの叩き上げで社長に上り詰めた豊田会長だからこそ、「VIP送迎車=センチュリー」という旧来からの常識にとらわれることなく、アルファードの利便性をいち早く見抜けたのかもしれない。
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