安全なの? 普及するの? 「デジタル給与」のイロハをプロが解説:今年4月から解禁(2/3 ページ)
4月の法改正により、デジタルマネーなどでの給与の支払いも認められました。いよいよ、日本のキャッシュレス化も加速しそうです。給与のデジタル払いのイロハを、プロが解説します。
安全を担保する8つの要件
そこで厚生労働省は「資金移動業者」に8つの要件を課し、全てを満たした業者のみを「指定業者」と定めました。指定を受けた業者のみ取り扱いができるようにして、安全を担保したのです。ガイドラインに定められている指定の要件は以下の通りです。
- 口座残高の上限額を100万円以下にすること。また、100万円を超えたときには、従業員があらかじめ登録しておいた銀行口座へ当日中に送金を行うこと。
- 破綻等したときは、口座残高の全額を速やかに弁済することを保証すること。
- 従業員の意に反する不正な取引や従業員の責に帰すことができない理由により従業員に損失が生じたときには、その損失額全額を保証すること。
- 最後に口座残高が変動した日から少なくとも10年は口座残高が有効であること。
- 口座への資金移動は1円単位でできること。
- 少なくとも毎月1回は、従業員に手数料負担が生じることなく、ATM等により現金の払出しができること。
- 給与の支払いに関する業務の実施状況や財務状況を適宜、厚生労働大臣に報告すること。
- 給与の支払いに関する業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ社会的信用に疑いを生じさせることがないこと。
代表的な資金移動業者は、NTTドコモ(d払い)、LINE Pay(LINE Pay)、auペイメント(au PAY)、メルペイ(メルペイ)、楽天Edy(R Pay)、PayPay(PayPay)、Kyash(Kyash)などがありますが、厚生労働省の指定を受けた業者は公表されていません。
会社が導入したら給与はデジタル払いだけになるのか
給与のデジタル払いは、あくまで給与の支払い・受け取りの選択肢の1つ。支払方法の1つとしてデジタル払いを導入するのは会社の自由ですし、会社が導入したとしてもデジタルマネーで受け取るか否かは従業員の自由です。今後、給与のデジタル払いを検討している企業は、次のような手順で準備を進めることになります。
(1)給与のデジタル払いに関する「労使協定」を締結する
具体的には、次の4つの項目が入った労使協定を、労働組合もしくは従業員の過半数代表者と締結します。
- 対象となる従業員の範囲
- 対象となる給与の範囲とその金額
- 指定資金移動業者の範囲
- 実施開始時期
(2)従業員への説明会を開催する
会社は従業員に対し、給与の支払い方法について次の3つの選択肢を提示して、この中から複数選択できることを説明しなければなりません。なお、結果的にデジタル払いを強制した場合には法令違反になります。
- 預貯金口座への振り込み
- 証券総合口座への払い込み
- 給与デジタル払い(厳密には「指定資金移動業者口座への支払い」といいます)
(3)従業員からの同意を取り付ける
デジタル払いを希望する従業員に対して、会社は指定資金移動業者口座に関する説明を丁寧にした上で、同意書(厚生労働省のひな型が利用できます)を取り付けます。従業員もデジタル払いを選択するからには、会社の説明をよく聞き、下記に留意して同意書を提出しなければなりません。
- 資金移動業者口座の上限額を超過した場合は、あらかじめ登録した預貯金口座に超過額が送金されるが、その送金手数料を求められる場合があること
- 指定資金移動業者口座から不正に出金された場合は、自分に過失がなければ全額保証されるが、過失がある場合には個別対応となること
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