中小企業にお金を“バラ”まけば、労働者の賃金が上がらないワケ:スピン経済の歩き方(1/7 ページ)
中小企業の倒産が、コロナ禍を上回るペースで増えているという。こうした報道を目にすると「早く補助金をバラまかないと、大変なことになる」といった声が出てくるが、バラマキに効果はあるのか。
「ほらみろ、賃金を急に上げるから大変なことになったじゃないか! 早く補助金をバラまかないと、失業者があふれて日本はおしまいだ!」
なんて感じでちょっとしたパニックになっている人も多いかもしれない。先日、中小企業の倒産が、コロナ禍を上回るペースで増えているという報道があったからだ。
国や自治体からのコロナ助成金や補助金などが打ち切られてしまったことに加えて、中小企業向けの「ゼロゼロ融資」(実質無利子・無担保)の返済が本格化しており、返済できない中小企業がバタバタと倒産しているという。もちろん、この背景には、物価高騰に歯止めがかからず、ガソリン代も過去最高をマークしていることや最低賃金の引き上げなどが、中小零細企業を苦境に追いやっていることも無関係ではない。
さて、こういう話を聞くと、いますぐに「バラマキ」をすべきだと考える人も多いだろう。日本人のおよそ7割を雇用している中小企業がバタバタと潰れてしまったら、街には失業者があふれかえって、日本経済は壊滅的な被害を受ける。そうならないためにも、また何かの名目で助成金や補助金をつけてやったり、「消費税ゼロ」という実質的なバラマキで、中小企業の倒産を回避せねば――という理屈だ。
お気持ちはよく分かる。筆者自身も零細個人事業主だし、身内や友人に中小企業経営者も多いので、社会保障がパンクする前に、じゃんじゃんバラマキをしてくれたら、こんなにありがたいことはない。
が、日本経済全体と、われわれの子どもや孫世代のことを考えるとバラマキではなく、このままスルーしていただくのがベストだとも思う。要するに「中小企業倒産増加報道」にも取り乱さずにドンと構えるのだ。なぜかというと、中小企業がどんどん倒産していくのは極めて自然なことであって、その数が減っていくのは、少子高齢化と同じく日本にとっては「既定路線」だからだ。
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