中小企業にお金を“バラ”まけば、労働者の賃金が上がらないワケ:スピン経済の歩き方(4/7 ページ)
中小企業の倒産が、コロナ禍を上回るペースで増えているという。こうした報道を目にすると「早く補助金をバラまかないと、大変なことになる」といった声が出てくるが、バラマキに効果はあるのか。
賃金が低い背景
先進国では個人で起業しても成長できないと、物価高騰や賃上げの波にのまれて廃業する。そして、その物価や賃金の中で、新たなチャレンジャーが開業するという「新陳代謝」が活発に行われる。そういう過酷な環境がゆえ、アップルやテスラのような世界的企業も生まれていく。
しかし、日本は個人で起業しても、なんやかんやと手厚い保護を受けられて、おまけに賃金も低いので成長しなくてもなんとなく存続できてしまう。こういう「ぬるま湯」的な環境は、既得権益を持つ者にとっては天国だが、新規参入する者に取ってはやりずらいことこの上ない。
自社がこれから勝負をしていく業界内に「成長もしない、潰れもしない」という存続自体が目的の企業があふれていることで、現状維持を目的とした古い商習慣や利権構造が温存されている。だから、新しいことをやって秩序を乱すような者は、「出る杭」として頭を打たれて排除される。つまり、「会社を潰さない」ことが何よりも優先されるので、産業の「新陳代謝」がはばまれているのだ
こういう話をすると決まって、「中小零細企業が倒産しないで存続するから雇用が守られているのだ」という反論がくる。確かに、中小零細企業が異常なまでに倒産していないことで、日本は異常なまでに失業者が少ない国になっているのは事実だ。
ただ、物事にはなんでも光と影がある。本来は潰れるはずの中小零細企業が、労働者を雇い続けている。その結果、30年間、平均給与が上がらないという常軌を逸した状況に陥っているのも事実だ。
日本の賃金が低いのは、全企業の99.7%を占めて、労働者の7割が働く中小企業の賃金がずっと上がっていないからだ。その中でも特に平均給与を下げているのは、社長一家と従業員数名という家族経営の小規模事業者だ。
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