中小企業にお金を“バラ”まけば、労働者の賃金が上がらないワケ:スピン経済の歩き方(6/7 ページ)
中小企業の倒産が、コロナ禍を上回るペースで増えているという。こうした報道を目にすると「早く補助金をバラまかないと、大変なことになる」といった声が出てくるが、バラマキに効果はあるのか。
中小企業の倒産が少ない=正しい
中小零細企業の経営者とその家族からすれば、手厚い保護と安い賃金でも文句を言わずに働く数人の従業員のおかげで、30年、40年という「経営者人生」を限界まで全うできる。なんとも幸せな人生だ。
しかし、中小零細企業で働く労働者からすれば、成長もしない企業を存続させて、経営者と一家の幸せのために、「低賃金労働」を捧げているようなものだ。そして、そんな「滅私奉公」によってその人が本来ならば得られるはずの賃金、未来が奪われてしまう場合もあるのだ。
ただ、こういう話をすると、日本では全方向からお叱りを頂戴する。中小企業で働く人は低スキルなので、再就職先なんて簡単に見つからないとか、仕事はやりがいや職場環境が大事なのでカネだけが幸せじゃない的なことを言われて、とにかく「中小企業を倒産させない」ことが絶対的な正義であり、社会がどんな犠牲を払ってでも実現させなくてはいけない、という結論に流れがちだ。
そんな日本特有の思想の根底にあるのは、「弱者保護」だ。中小企業は大企業に比べて圧倒的な「弱者」なので、国や国民みんなで潰れないように支えるのが当たり前だという考え方だ。そのためうっかり、競争力のない中小企業が潰れるのは自然淘汰でしょ、なんて口走ろうものならば、「弱者切り捨てだ!」と犯罪者のように叩かれてしまう。
ただ、本来潰れなくてはいけない中小企業を強引に保護するほうが、労働者を人身御供にして低賃金を強いているわけだから「弱者切り捨て」になる。
弱い個人には生活保護のようにセーフティネットが必要だし、自立を支援するようなサポートも必要である。ただ「弱い法人」にはセーフティネットも、自立支援のサポートも不要だ。
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