店舗と客の接点増には「ムダや遊び」が不可欠 仕掛けで変わる体験価値:「小売DXと仕掛学」後編(2/3 ページ)
好奇心をくすぐる工夫で、人々の行動変容を促す「仕掛け」。仕掛けと小売を掛け合わせたら、どんなシナジーが生まれるのか――。後編では、小売業における仕掛けの活用シーンや、DXにエモーションが欠かせない理由について紹介する。
DXにエモーションが重要なワケ
郡司: ありがとうございます。最後のトピックは「DX時代にエモーションが重要な理由は」です。松村先生は「DXにエモーションが重要」というのは、どういうことだと思いますか。
松村: 僕はこれはすごく重要だと思っていて、DXといったときに、企業側の中でDXをして、お客さんにそれを押し付けてしまっている側面があるのではないかと。それは逆効果じゃないかと思っています。
2018年にショッピングセンターで、アンケートに答えたくなる仕掛けのイベントを実施したことがあります。レゴブロックで作った「自動紙飛行機折り機」を用意し、アンケートに答えてくれたら折り機に回答用紙をセットして紙飛行機を飛ばせるというイベントです。
仕掛けの有無でアンケートの回収件数を比較してみたところ、仕掛けがないときは2通、仕掛けがあるときは89通と、圧倒的な差が見られました。
いったん回収したアンケート回答用紙をわざわざ折り機にセットするので時間がかかります。一見、無駄なことをしているように見えるのですが、返ってお客さんは来てくれる。なぜなら、それが面白いからです。その無駄は、なくしたらダメだと思います。紙飛行機を飛ばすのは無駄だから効率化しようとしたら回収時間は早くなりますが、お客さんは来なくなります。
効率化として削除されることの中には、面白みのあるものも含まれているかもしれません。それをうまく残す、もしくは作り出さないといけない。一見、効率的ではないけれど、(回答の回収件数が増えて)結果的に効率化していることが大事。そのキーワードは、エモーションだと思っています。
あえて無駄が必要というか、それが効果を発揮する場合があります。それを「体験価値のデラックス化」と表現しています。
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