看板「500円ランチ」が消滅? さくら水産、知られざる「高級シフト」の今:敵は「磯丸水産」だけではなかった(3/3 ページ)
かつて「500円ランチ」や安価な海鮮メニューを武器に人気を博した「さくら水産」。ピーク時には約150店舗を展開していたが、現在は20店舗ほどにとどまる。そんなさくら水産が、意外な変貌を遂げていた。
日本人1人当たりの魚消費量は01年度をピークに減少傾向を見せていることも大きい。そもそも、お酒の席で魚を食べる習慣が減っていることも、さくら水産が衰退した要因の一つだろう。もちろん影響を被ったのは、さくら水産だけではない。話題性が尽きたのか、磯丸水産も17年2月期以降は店舗数が減少傾向にある。古くから海鮮系居酒屋として知られる「庄や」を運営する大庄(東京都大田区)も、08年8月期をピークに縮小傾向を見せている。そもそも海鮮系居酒屋の業界全体が縮小傾向にあるため、安さだけでは限界だったのかもしれない。
消費者は外食の値上げを受け入れ始めている
梅の花がさくら水産のイメージチェンジに踏み切ったのは、上記のように従来の低価格路線でも成功しなかったことが原因だろう。近年では原材料や人件費の高騰が低価格帯の飲食店を苦しめており、客単価2000円では利益を確保できなくなっていることも理由として考えられる。
三菱UFJ&リサーチコンサルティングによると、近年の安い居酒屋形態では「せんべろ」や「立ち飲み」形式など、高回転率の店舗しか利益を出せないようだ。確かにさくら水産は数人でゆっくり飲みに行くような場所であり、回転率が高い印象はない。安く売ってもそこまでの集客につながらず、利益も得られないとして梅の花はさくら水産のリニューアルに踏み切ったのだろう。
最近では、物価上昇が消費者を苦しめているとの報道がよく聞かれる。ただ、筆者が取材で外食関係者に聞いたところによると、消費者は小売よりも価格上昇を受け入れるようになっているという。値上げが客数減少をもたらさず、むしろ増収になった飲食チェーンも多く見られる。低価格路線から脱却したさくら水産も、品質を高めたことで新たなファンをつかむかもしれない。海鮮系居酒屋の業界全体が縮小傾向にあるため、以前ほどの水準には戻らないと思われるが、アフターコロナでの再起に期待したいところだ。
著者プロフィール
山口伸
化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_
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