復活のロータリー 「ROTARY-EV」で、マツダは何をつくったのか:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/6 ページ)
今回登場した「MX-30 ROTARY-EV e-SKYACTIV R-EV」 を端的に説明すれば、メカニズム的には2021年に発売された「MX-30 EV MODEL」のモーター/発電機と同軸に、発電専用ワンローターロータリーエンジンを追加したものだ。
「外では充電しない」思想
そして、運用思想的にもEVモデルの延長線上にある。BEVの運用なので、当然ながら自宅での普通充電が大前提になる。EVモデルとR-EV、ここまでは一緒だがここからは違う。EVモデルでは出先でバッテリーが減った場合、急速充電器を使って経路充電をするのだが、R-EVの場合は、原則的には「外では充電しない」思想だと考えていい。
バッテリー容量の小さいBEVは航続距離が短いので、スタート時に100%にしておきたい。あとで説明するが、原則的に占有使用できる普通充電なら100%にできるが、共用利用が前提の高速充電器は80%以上の充電が不得手だからだ。
なぜか? もちろんR-EVは、急速充電が可能なシステムにはなっているが、搭載されている17.8kWhのバッテリーで、調子良く高速充電できるのは全容量の80%程度。バッテリー上限付近の80%から100%はゆっくりしか充電できない。
【訂正:9月22日 初出で、バッテリーの上限下限の20%は急速充電できないと記載していましたが、正しくは急速充電に制限をかけているのは上限20%のみでした。訂正し、かかわる数値についても修正しました。】
筆者の経験で言えば、80%からの充電では、30分の制限時間がある急速充電器で2回、計1時間充電しても100%にはならない。そもそも満充電での航続距離が107キロ。充電効率の悪い上限付近20%を引いた残り80%を走行距離にすれば理論値で85.6キロ。実質では70キロを切るだろう。時速100キロ走行の想定だと40分かそこらに一度充電しなければならない。要するにバッテリーが小さいR-EVにとって急速充電は効率が悪い。
ちなみにバッテリーの上限付近での充電速度低下については、およそBEVである限り同じだ。電池容量がデカくても急速充電では上限20%で効率が落ちるのは一緒だがデカいぶんだけ高速充電可能な絶対値もデカいというだけのことである。
あらかじめ書いておくが、これはバッテリーというエネルギー保存装置の構造的な欠点なので、特別にマツダの設計がボロいということではない。とにかくMX-30シリーズはずっと正しく理解されずに酷評されているので、予防線を張っておく。
さて、とにかく大事なことだからもう一度書いておく。R-EVをハイブリッドの延長で捉えると、意味が分からなくなる。これは非常用発電機を積んだBEVである。そこをまずなんとか飲み込んでほしい。トヨタのTHSとも日産のe-POWERとも地平線を共有していないのだ。
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