復活のロータリー 「ROTARY-EV」で、マツダは何をつくったのか:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)
今回登場した「MX-30 ROTARY-EV e-SKYACTIV R-EV」 を端的に説明すれば、メカニズム的には2021年に発売された「MX-30 EV MODEL」のモーター/発電機と同軸に、発電専用ワンローターロータリーエンジンを追加したものだ。
トヨタが押されるくらい正論
要するに、通勤や買い物に使われるファミリーカーと考えた場合、新車で購入してから、オーナーが代替わりして最後の最後廃車になるまでを考えても、エンジンを使って走る距離は生涯走行距離のせいぜい5%くらいだろう。そういう使い方の人(おそらくはユーザーの8割以上)を想定して、あくまでも緊急避難用のエンジンとして、徹底的にミニマムな重量とサイズを狙った結果のロータリーであり、圧倒的な割り切りを貫いた結果、バッテリー搭載量を現実的に、それで困る場面のために緊急デバイスとしてのエンジンを備えた。
言い切るのは危険だけれど、そういう使い方ならば、これ以上のシステムはなかなか出てこないだろうと思う。ものすごく正しい。正論。そして考え方が新しい。従来になかったバランスポイントである。
どのくらい正論かというと、トヨタが押されるくらい正論だと筆者は思っている。初代プリウスの登場以来、ずっと電動化の大正義だったトヨタのTHSだが、こうやって充電可能なPHEVのシステムとしてみると、明らかにエンジン性能が過剰なのだ。
トヨタのTHSは本質的には内燃機関を主体とし、モーターに上手に補助させることでCO2排出量を減らす仕組みである。だからまず徹底的に低燃費な高性能エンジンがその中核にある。トヨタのダイナミックフォースエンジンは高タンブル(縦渦)と、ロングストローク、急速燃焼に加え、バルブタイミング制御による可変圧縮比を搭載した、現代理論に基づくハイテクを盛り込んだ重厚長大的思想のエンジンである。
そこに多くの複雑な機構が組み込まれているから燃費が良い。これをリチャージしないハイブリッド(HEV)で使用すると鬼に金棒で、エンジンが最高効率で生み出した車両運動エネルギーから、減速時にハイブリッドシステムが効率よくエネルギーを回収して、さらに燃費を伸ばしてくれる。
対してR-EVは、あくまでもバッテリーとモーターが主役で、エンジンは黒子である。アウトドア用の折りたたみ椅子だと思えばいい。何よりも軽くコンパクトなことの方が圧倒的に大事だ。ソファと比べて座り心地が……というなら、そのソファをBBQや花火見物に持って行けるかどうかを考えてみればいい。
こう書くと怒られるかもしれないが、R-EVはマツダ自慢の、そしてファンが待ち望んだ、ある意味信仰の対象とさえいえるロータリーを、こともあろうか、普段は使わない緊急用、いわばテンパータイヤみたいなものとみなす逆転の発想が生んだエンジンだ。小さく軽くパッケージに有利であるという、ロータリーの生まれ持った素養が、悪評芬々(ふんぷん)たる燃費の話を押し除けて、もう一度技術の最前線に返り咲かせた。
だからこそ、この面ではトヨタも及ばない。軽さとコンパクトさが輝くPHEVの領域では、トヨタは天下のTHSを「速さ」をウリにして誤魔化すしかない。
金があるトヨタだから新たに発電専用エンジンを立ち上げることも可能かもしれないが、いざやるとなった時、ロータリー以外にどんな形式があるというのか? 並列2気筒だったら、360度クランクの振動を我慢するか、180度クランクの不等間隔爆発を許容するか決めなくてはならない。水平対向は左右バンクのズレの分がかなり大きく、2気筒化してもコンパクトにならない。これは筆者が言っているわけではなくて、実際にスバルのエンジニアが試した結果として言っている話だ。
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