ECで買って店舗で受け取り ウォルマートが導入し話題の「新たな購買体験」とは:がっかりしないDX 小売業の新時代(3/3 ページ)
ECで購入した商品を店舗で受け取るBOPIS。米小売大手ウォルマートが先駆けて導入し、日本の小売業でも注目を集めています。今回は、9月に筆者が小売視察で訪れた米ニューヨークのBOPISの最新動向を紹介します。
小売店にとってのメリットは?
粗利益率が低く、商品の点単価(顧客が購入する1商品の平均単価)も安いFMCG(※)を扱うドラッグストアやスーパーマーケットなどの業態は、通常のECサイトで収益性を確保することが困難です。顧客宅へ個々に配送する通常のECと違って宅配料金がかからないBOPISであれば、オペレーション次第で黒字化する可能性が高まります。
また、来店してもらうことで、店頭で実物を確認したい顧客のニーズにも応えられますし、店内に入ってもらえれば非計画購買が発生します。業態にもよりますが、筆者の経験上2割前後のついで買いが期待できます。
※FMCG:Fast Moving Consumer Goodsの略。消費者向けの低価格の製品(日用消費財)のことで「動きが速い=商品回転率」が高く、消費者の目的に合わせて商品開発のスピードが早い商品のこと。
さらに、注文をアプリやサイトから受け付けられるBOPISでは、店頭在庫のない商品も取り寄せて販売できます。世界最大のホームセンター企業であるホームデポの店頭商品は約3万SKUですが、Webサイトでは100万SKU以上扱っています。店舗に売っている商品以外に、33倍以上の商品を販売するチャンスがあるのです。
最後に最も肝心なのは、上述した通り顧客体験が向上するということです。顧客の支持を得られるサービスを提供している企業とそうでない企業のどちらが選ばれるかは明白です。
BOPIS成功のカギは?
BOPISを成功させるためには、店舗の在庫管理が非常に重要となります。
顧客がオンラインで商品を購入し、店舗で受け取るというプロセスをスムーズに行うためには、リアルタイムで正確な在庫情報が必要となります。また、顧客が商品を迅速に受け取るためには、連載の第3回「売り場をムダに歩き回る店員……店舗出荷型ネットスーパーの成功に必要な4つの視点」で書いたように、店員のピックアップ効率が重要なため、商品の陳列位置情報も必要となります。
ウォルマートなど米大手小売業のアプリは毎月のように顧客の使いやすさを考慮してリニューアルしています。顧客の使い勝手を向上させる取り組みは一回作って終わりというものではなく、改善の積み重ねが必要です。
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