人的資本経営って面倒? いやいや「人事のやりたいこと」をする“武器”になる! 歓迎すべき理由とは(2/3 ページ)
人的資本経営のストーリーを使えば、人事施策を説明しやすい――人的資本の考え方を“うまく使うコツ”を、デロイト トーマツ コンサルティングの執行役員が解説します。
「結局は人に関する話」 パフォーマンスとウェルビーイングを両立するには?
「人的資本経営は結局は人に関する話です。従業員の潜在能力をいかに引き出してパフォーマンスを出せるかという観点と、いかに気持ちよく働いてもらうかというウェルビーイングの観点の両立が大切です」(田中さん)
この2つを両立させる働き方として、田中さんは6つの要素――雇用、キャリア、組織、社会、ワークスタイル/ワークプレース、情報を挙げた。特に日本で重視すべきがワークスタイルやワークプレースと田中さんは説明する。
デロイト トーマツが若者に対して「現在の勤め先を選んだ理由」を聞いた「Z・ミレニアル世代年次調査2022」では、ワークライフバランスなどの「職場での過ごしやすさ」に関わる項目と、能力開発などの「個人の成長機会」に関する項目の得票が全世界的に高かった。
特に日本は働きがいや職場のカルチャー、福利厚生などの得票率が高く、職場環境を重視していると分かる。Z世代よりもミレニアル世代のほうが、この傾向が強い結果だった。優秀な人材を確保し、今後パフォーマンスを発揮してもらうにはワークスタイルやワークプレースの拡充が求められるだろう。
働き方の改革については、「人的資本経営の11領域のうち組織文化に相当すると考えています。組織文化の項目には、エンゲージメントや従業員の満足度、コミットメント、リテンション(人材確保)の割合などが挙げられています」(田中さん)。これを踏まえて、どのような取り組みが、どのような成果に結び付くのかをストーリー立てて説明をするのがいいと田中さんはアドバイスした。
ハイブリッドワークを成功させる“カギ”
ワークスタイル改革の施策と成果の例として、田中さんはハイブリッドワークの取り組みを挙げた。コロナ禍を経て多様な働き方が登場している現在は、出社とテレワークそれぞれの利点と課題を踏まえた新しい姿としてのハイブリッドワークが求められている。
Z・ミレニアル世代年次調査2022では、希望する勤務形態として回答者の約50%がハイブリッドワークを挙げた。さらにZ世代に2年以内の離職意向を聞くと、出社100%またはテレワーク100%の人の約40%が離職意向を示したのに対し、ハイブリッドワークの人は約28%で12ポイントほど低い結果になった。従業員がハイブリッドワークを歓迎していると読み取れる。
テレワークは便利だが万能ではなく、課題があるからハイブリッドワークという選択肢に注目が集まっている。特に難しいのが社内外のコミュニケーションや企業カルチャーの醸成だ。
コミュニケーションを目的と手段に分類すると4つに分けられると田中さんは話す。
- 日時や参加者が明確なもの(会議や1on1など)
- 特定の対象者を一時的に拘束するもの(報告や通知など)
- 対象者が明確ではなく、時間的な拘束がないもの(情報共有や掲示板など)
- 対象者が明確ではない対面コミュニケーション(出社時のあいさつや立ち話など)
このうち4つ目がハイブリッドワークの成否を握るカギになる。1〜3つ目までは手段が明確で、会議はWeb会議ツール、報告はメール、情報共有はチャットツールなどを使えば出社を代替できる。しかし4つ目の立ち話は、これが企業カルチャーの土台になることが多いのにオンラインで再現するのが難しい。
関連記事
- 「ISO30414取得」発表日には株価16%上昇──他にもあった「大きなメリット」とは 日本初の認定企業に聞く
人的資本の情報開示義務化を受け、多くの企業が開示を見越した取り組みを始めている。国外にも目を向けると、開示のための国際的なガイドライン「ISO30414」の認証を受けた企業が注目されている。認証を受けたことで、どのようなメリットがあったのか。また、どんなステップを踏んで認証に至ったのか? - 注目の「人的資本経営」入門編 財務諸表には表れなくても、企業が向き合うべき理由
未だ多くの人にとっては「聞き覚えはあるけれど、理解度はあまり高くない」といった状況の「人的資本経営」。利益に必ずしも直結しなくても、今こそ経営・人事が連携して着手しなければならない理由とは? - 人的資本開示が、「企業の価値」を左右する 伊藤レポートが伝える、人材戦略“3つの視点”
後編では、人的資本開示の国内における動向をお伝えします。多くの人の知るところとなった「人材版伊藤レポート」のほか、国内ではどのような動きがあるのでしょうか。 - “経営に役立つ人事戦略”は、どうすれば実現できる? 人事の「人的資本経営」の始め方
最近注目の「人的資本経営」。国内でも、対応する動きが確実に進んでいます。人的資本経営を進める上で、人事部に期待されるものは何でしょうか。 - 約9割が必要と感じる「人的資本開示」、実施は6割どまり 何が課題?
人的資本開示に関して、日本企業はどのような取り組み状況なのか。エッグフォワード(港区)が調査を実施した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.